▽同校/リコが女バス/リコ視点

私の一つ下の後輩で男子バスケ部所属の青峰大輝はとても生意気だ。入学してすぐに単身で体育館に乗り込んできて、バスケ部レギュラーに1on1を挑み見事キャプテン以外のレギュラー部員を負かした。それだけでも十分すごいことだと私は思ったのだけれど彼は納得いかないような顔をしていて。

「次は絶対勝つからな、覚悟しとけよ」

そんな生意気な台詞を残して、次の日バスケ部に入部した。先輩を敬うことを知らないその男子は、誰に対しても生意気な態度で、入部したその日に周りに敵を作ってしまった。部活内のルールなんてまるで守る気がない、「ルールなんて破るためにあるんだろ?」とか思ってるんだろうなと思う。

「…はあ。コミュニケーション能力皆無ね」
「リコ先輩?どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないわ。私たちも練習始めましょう」

私がボーっとしているのを見て心配してくれた後輩に笑顔でそう答え、女子バスケ部も練習を始めることにした。

***

その日は珍しく青峰君は最後まで部活に参加していた。あまりにも珍しい光景に思わず見入ってしまうと、タイミングよく青峰君がこちらを見た。微かに口角が上がったように見えたが多分気のせいだろう。彼は私はこれまで一度も関わったことがないんだから。私に笑いかけるはずがない、ていうより彼は滅多に笑わない。笑ったとしても嫌味な笑い方しかできない。だからきっと、今のは見間違いよ。

「うん、きっとそうに決まってるわよね」
「なにが?」
「…ひっ!あ、あお、青峰君!」
「どーも、リコ先パイ」

いつの間にこんなに移動していたんだろう。生意気な笑みを浮かべる青峰君が私のすぐ横に立っていた。私よりずっと背の高い青峰君が私と話をするとなると必然的に私は青峰君に見下ろされて、そして私は青峰君を見上げることになる。何だか悔しいけれどもその悔しさをおさえて、見上げてみれば青峰君はにやりと何かを企んでいるような怪しい笑みを浮かべて、私の後頭部をつかんできた。先輩に対する態度とは到底思えない。てかありえない!

「なにす…っ!!」

先輩に対してのあり方を教えてやろうと口を開いた瞬間には青峰君の顔が目の前にあった。唇には柔らかくて温かい感触。離れたと思ったら再び唇を塞がれて、獣のように唇を貪ってきた。何が起こったのかすぐに理解できなかった。

(なにこれなにこれなにこれ!)

軽くパニック状態の私を青峰君は楽しそうに見つめながらキスを繰り返す。押し返そうにも青峰君の鍛え上げられた胸板はびくともしない。

「んーっ!!」
「わりいわりい、うまそうだったからついキスしちまった」

やっと解放されたかと思えば、軽い口調で青峰君は言った。私にとっては、女の子にとってはファーストキスはすごく大切なものなのに。詫びの気持ちが全く伝わらない。最悪…こんな男にファーストキスを奪われたなんて…。落ち着いてから改めて考えてみると、恥ずかしさとか色々なものが溢れ出し涙になってこぼれた。

「ちょ、は、え?なに泣いてんだよっおいっ!」

私の涙を見て青峰君は慌て始めた。どうしていいのか分からないらしく、一生懸命何かを考えているのだが思いつかないため困った表情を浮かべている。私だってそんな顔されても困るわよ。被害者はこっちだっていうのに、そんな顔しないでよ。それにもう過ぎたことはくよくよしない。キスのことは悲しいけど、こんなのカウントに入らないわ。愛する人とキスをしたときが私にとってのファーストキスなんだから。

「もういいわよ。きみのこと何とも思ってないからこんなのカウントに入らないわ」

だから気にしないで、そう告げると青峰君は心底傷ついたような顔をしたあと、怒ったような表情を浮かべた。意味が分からない。どうして、そんな顔をしているのか。なによ、と告げる口は再び塞がれ、その瞬間聞こえたのは私たちの様子を見物していたギャラリーの黄色い声。青峰君は私の口にしたことを理解してくれなかったの?何を思ってまたキスなんてしたのかしら。本当によくわからない男子だと思う。

「青峰、君」
「オレのこと何とも思わないなんて思わせないぐらいにオレのこと意識させてやるよ」

私の唇を開放するとそう満足気にそう口にする。

「勝負事なら負けないわよ」

私も強気にそう返してやると青峰君は何故か嬉しそうに笑って、突然私の体を自分の体に引き寄せてきた。突然のことでバランスが上手く取れず青峰君の胸にそのまま抱き寄せられてしまった。いくら不意を突かれたといっても青峰君の思い通りになったのが少し悔しく感じる。今すぐにでも急所を蹴り上げて脱出を試みようと思ったけれどそれはできなかった。
何故なら。彼が私の耳たぶに熱い吐息をふきかけ、甘噛みしてきたからだ。人一倍敏感な耳だから、何も感じないわけがない。思わず口からこぼれる変な声。羞恥心でおかしくなりそうだ。

「イイ声で啼くよなリコ先パイ。すげえ興奮するんだけど」

耳元でそう囁いてくる青峰君。しゃべるたびに吐息が私の耳と首筋に当たりぞわぞわとする。…けれどそのぞわぞわは悪い意味のものなんかじゃないと自分でも分かる。多分、私も彼に欲情しているのだと、悔しいけれど気づいてしまった。
彼の瞳に捕まったときにはすでに、私はもう彼から逃げられないと決まっていたのかもしれない。まるで、獣から獲物としてターゲットにされたか弱き動物のように。きっと、運命はそう決まっていたのだろう。
抗えないほど、強引な男の手によって私の「いつもどおり」の毎日、平穏はどこか遠くへ行ってしまった。明日からどんな日々を過ごすことになるのかは、全く私には予測できなかった。ただ今予測できるのは、私を抱きしめている男が満足そうに微笑んでいるであろうということだけ。生意気すぎる後輩君に抱きしめられたまま、私は失われた平穏を思って深いため息をついた。


恋ってやつは当然やってくる
(ていうか恋かなんてまだわからないわよ!)
(いや、お前はオレに恋してんだよ。認めろばーか)

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2013年《リコ生誕企画》
みりさんへ


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