▽火神視点
こんな強敵はバスケの勝負だけで十分だと思った。他のことでも張り合うなんてごめんだ、どんなに体力があっても持たねえ。どんなことでもアイツが相手になれば勝つことは簡単ではなくなる。つまり、それは恋愛面に関しても同じように言えることだ。あいつがオレと同じ女を好きになったらそれはそれは厄介な問題なわけで。
冗談じゃねえ、もし本当にそんなことになったらオレは多分何も口にできなくなる。きっと。
きっと。
***これはどういうことだ。今オレの目の前で起きている出来事の要旨をできれば簡潔に教えて欲しい。
「あ、火神君助けてっ!ちょっ!どこ触ってんのよアホ峰!!」
「ああ?どこっておっぱいだろ?つかさ、オマエも邪魔すんなよ」
珍しくいつもより早くに家を出たから、朝練でもしようかと体育館に足を運んでみたらこれだ。何故か青峰がカントクを後ろから抱きしめて、その上あろうことか胸をつかんでいる。必死でカントクは抵抗しているようだけど、どう足掻いてもこの色黒男には適うはずがない。それに後ろから抱きしめられていては余計に力はでない。それを分かっていて青峰はわざと後ろから抱きしめたんだ。間違いない。
つーかほんとに何言っていいか分からねえ。これはつまりあれだろ?青峰の好きな女もカントクだったっていうパターンだろ?なにこれ、オレバスケ以外でもコイツとやりあうわけか?まじでねえ、最悪だ。最強のライバルだ、コイツ。
「リコ胸ちっせーけど感度は良さそうだぜ火神。知ってたか?」
「うるせー黙れ。カントクからさっさと離れろこの色黒が」
カントクの胸をいまだに触りながらにやにやと笑う青峰と、半泣きになるカントクを目の前に、オレは我慢ができずカントクの腕を掴んで思い切り自分の胸に引き寄せた。でも青峰がそれで諦めるはずがねえ。カントクの左腕をがっしりと掴んだまま離そうとしない。カントクは掴まれた左腕を見てそれからオレの方を見てきた。多分「どうにかして」という願いを込めて見てきたに違いない。瞳を潤ませたカントクはすげえ可愛いと思うけど、目の前のコイツからどうやってカントクを引き離そう。
「なあオレの方に来いよ、ソイツより体温たけーからあったけーぜ?」
「…本当?」
「お前はカイロか!てかカントクも釣られてどうするんだ!です!」
「つい…でも確かに青峰君暖かそうよね」
今にも青峰に抱きつきそうなカントクを強く抱きしめて拘束した。カントクを見れば、さきほどの発言で少しずつ青峰の体温に魅力を感じてきているようだった。なんて単純な人なんだと思うがそんなこと今更だ。カントクはいつだって無防備で素直すぎる。そのせいで青峰のような悪い虫までつくんだろう。
「青峰の言葉を簡単に信じるな、ですよ。それに体温ならオレも十分温かいっす」
「そうみたいね、すごく火神君の腕の中温かいもの」
にこりと天使のような笑顔を自分の腕の中にいるカントクがオレだけに向けてくれた。これだけでオレは十分幸せで、目の前にいる男の存在など一瞬でオレの頭の中から消し飛ばした。幸せの絶頂にいたオレを現実へと引き戻した男はどうやら緩んだオレの頬を思い切りつねってくれたらしい。
「リコ、オレの方が絶対あったけーから。オレを選べ」
「信じちゃ駄目っすからね、オレの方があったけー、です」
「ええ?」
青峰に対抗するようにオレもそう口にしてみればカントクは困ったような顔をしてオレたちの顔を交互に見る。だが中々決まらないのか無言になり急に下を向いてしまった。どうやら決めるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
オレとしてもカントクが自分で決めるのを待っているつもりだったが、青峰が突然「オレたちで決めるぞ」などと言い始めて体育館に入っていった。どうやらオレとバスケの勝負でカントクを抱きしめる権利を掴み取ろうということらしい。
上等だ。カントクが決められないならオレたちで決めてやろうじゃねえか。
「「ぜってー負けねー!」」
体温勝負、どちらが温かい?−−−−
2013年《リコ生誕企画》
青さんへ
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