壁に縫い付けられるようにして押さえつけられた腕が痛んだ。
泣きそうなぐらい辛いなら最初からこんなことしなければいいのにと、目の前に広がる眩しい金髪を視界に入れながらリコはふとそう思う。相手の男は情けない表情を浮かべ瞳には涙までも浮かべている。だがしかし力は驚く程強く、リコを押さえつけて何かをしようという決意はそこそこ強く持っているらしかった。

「ねえ、黄瀬君」
「…オレ、離さないっスから」

リコの言葉を全て聞く前に黄瀬はそう告げる。気づけば、少し前の情けない表情の黄瀬はどこにもいない。今目の前にいるのは、試合の時のような鋭い瞳でリコを見つめる真剣な表情をした黄瀬だった。そんな黄瀬を見て胸がドキリとなったことはリコだけの秘密だ。
リコはほんの脅しのつもりで、黄瀬に腕を押さえつけられたまま唇が触れ合うか触れ合わないか程度のギリギリのところまで顔を近づけて微笑んだ。まるで挑発するように、余裕の笑みを。リコは黄瀬がどんな反応を見せてくれるのだろうと彼を見つめた。すると黄瀬はリコの想像とはまるで違うことをしてリコを驚かせた。

「オレだってやるときはやるんスよ」

そう言ってリコの柔らかな唇に唇を重ねたのだ。黄瀬の間抜けな顔を拝むつもりでいたリコは面くらい、ただ呆然と黄瀬の顔を見つめた。すると黄瀬はさきほどのリコと同じように余裕の笑みを浮かべて「もう一度して欲しいんスか?」などと口にするのだ。

リコはやっとそこで恐怖を感じて体を小さく震わせた。がたがたと足が震え立っていられず思わずしゃがみこむリコ。黄瀬はそんなリコに目線を合わせるようにしゃがみこみ「大丈夫っスか?」と心配するフリをしてまた唇を奪い去った。

「な、にするのよ」

唇をかみしめて黄瀬を睨むリコだが、黄瀬は何の反省の色も見せずただ楽しそうに微笑んでいた。そして。

「リコさん愛してるっスよ」

最後の最後にそれだけ言うとリコを抱きしめて、「ごめんなさい」と言って子供のように涙を流す。リコは大きな子どもをあやすかのように背中をさすってあげた。
数分経って幾分か落ち着いた呼吸音を聞いてリコは内心ほっとする。しかし拭いきれないほどの涙を黄瀬はまだ流していた。リコはそんな彼を愛しそうに見つめて頬をつたう涙をぺろりと舐めとる。

「不器用な愛し方だけど、嫌いじゃないわ」

呟くような小さい声で。だが黄瀬にはしっかりと届いたらしい。涙がぴたりと止まり次には花開くような満面の笑みを浮かべていた。リコもまたその笑顔に安心したのか優しく微笑んで見せた。


(誰のものでもないきみが、)
消えてしまいそうで怖かった

title by Aコース

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2013年《リコ生誕企画》
そらさんへ


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