▽第140Q捏造

いつぞやの試食会のように、リコはサプリメントを料理にいれるという恐ろしい失敗をした。遅効性の毒のようにじわじわと後から日向たちの体にダメージを与えたちゃんこ鍋を机に放置したまま、彼らは全員意識を失った。作った本人でさえそのダメージに耐えられずに倒れたのだから、他のメンバーに耐えられるはずがない。暫く誰一人として意識が戻ることはなかった。

それから暫くして一番初めに起き上がることができたのは、日向だった。何度かリコの料理を食べて体が慣れてきているのか、他のメンバーに比べてダメージは最小限で済んだらしい。まだ気持ち悪さは残るものの、何とか起き上がり水を一杯飲んで落ち着くと倒れているリコの体に自分のジャージをかけてやった。

「ったく…ちったあ学習しろよカントク」
「…うるさいわね。おいしそうに食べてたくせに」

小さく呟いた言葉に意外にも返事は帰ってきた。伏せられていた睫毛がゆっくりと持ち上がり、少し吊り上った瞳が日向を見つめた。

「いつから起きてたんだ」

一瞬目を奪われたがそれを悟られたくなかった日向はリコから目を少し逸らしながらそう聞いた。リコは眠そうに目をこすりながら仰向けになり「ついさっき」と一言口にした。その言葉に日向はそうか、とだけ答えて他にはなにも言わなかった。日向の言葉を最後に再び部屋は静寂に包まれた。何となく気まずい雰囲気に日向は何かを喋ろうと必死に考えるが、考えれば考えるほど何も浮かばない。いつもなら普通に話せる相手なのにどうして話せないのか、と思ったとき向こうから口を開いた。

「私って、駄目よね」
「は?」
「料理ができなければ可愛くもない。気が利くタイプってわけでもないし、優しくもない。ついでに胸も…ないわ」

日向に背を向けてそう言ったリコの背中をどこか寂しそうで、声も少し震えていた。普段部員達に女らしさがないことでからかわれているリコだがどの言葉も気にしているようには日向には見えなかった。何に対しても笑って、ふざけた部員たちに制裁を与ええていた。悲しんだことなんて一度もなかったはずだったのに、今日向に背を向けているリコは悲しんでいる。

「カントク…?」
「やっぱりあの子…桃井さんみたいな可愛くて胸が大きい子の方がいいのかしら」

突然日向の方に体を向けたリコは苦笑しながらそう口にした。潤んでいる瞳からして、日向に背を向けたのは涙を見せないためだったのかもしれない。リコは困ったような顔をした日向に困らせてごめんね、と言って笑った。無理して笑うその姿はどこか苦しそうで、日向も胸が締め付けられ苦しくなる。
「そろそろ帰りましょう」と起き上がったリコを日向はたまらず抱きしめた。

「日向、君?」
「カントクはカントクのままでいい。オレはそのままのカントクが、」
「…うん」
「好きだ。自分を他の女と比べんな。カントクはカントクらしくいればいいから、だから、だから」

その先の言葉が出てこなくて抱きしめる力ばかり強くなっていく。リコは今にも泣きだしそうな日向の頭を軽くポンポンと撫でると顔を近づけそのまま頬に軽く口づけた。驚きのあまり目を丸くする日向にリコはクスクスと笑って今度は額に口づけ、そのまま鼻の頭にも口づけた。日向は訳が分からずえ、う、と声にならない声を漏らした。

「前に約束したわよね…試合に勝ったらご褒美あげるって」
「…それ頬だけの約束だっただろ」
「そうだったかしら?まあいいわ。今のはおまけってことで」
「けどどうせなら、口に欲しかったんですけどリコさん」
「調子に乗るな!」
「いいだろ別に。だって両思いだろオレら?」
「〜〜〜〜っ!今日だけよ…!」


やっと心が通じ合った

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紫芦さん、あやかさんリクエスト。


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