▽黒尾視点


突然、「痛い〜」と涙目で両頬に手を添える俺の彼女。何かと思えばどうやら虫歯らしい。昨日の昼頃から痛み出したらしいがそのときは我慢できるくらいの小さな痛みで。すぐに病院へ行けば良かったのだが病院嫌いの彼女は放置しとけば治ると自分に言い聞かせ病院へは行かなかったらしい。

「馬鹿かお前は」
「だ、って…病院苦手なんですよ〜…」

うぅ、と涙を瞳にたくさん浮かべてそう口にする姿も中々可愛いが、苦しんでる姿を見るのも辛いものがある。いつまでも頬に添えられたままの手、相当痛むのだろう。

「今すぐ病院行ってこい」
「…嫌です」
「いいから行ってこい。いつまでも痛みが続く方が辛いだろうが」
「嫌です!」

こいつ、どれだけ頑固なんだ。
前にも一度言い合いになったことがあったがそのときも頑なに自分の意見を変えなかったな。自分の意思をまっすぐに貫くのはいいことだし、そういう奴は好きだ。だが、今回ばかりは俺も引くわけにはいかない。谷地に病院へ行くと言わせるために何かいい案は無いかと考えてみる。が、そう簡単に思いつくものでもない。
ちらりと谷地を横目で見れば先ほどよりも痛みが強くなってきているのか更に表情を歪めている。

「谷地痛いんだろ?なら大人しく病院行っとけ」
「嫌なものは嫌なんです!」

駄目だ、こいつ筋金入りの頑固親父張りに頑固だ。

「そうか、それなら病院行くまでキスはお預けだな」
「え…?」

普段していることを禁止してみれば食いつくかなと思い何気なく言った一言に谷地は見事に食いつく。キスするの好きだからな俺の彼女は。まあ俺がそうさせたんだけど。
谷地は俺の一言に相当ぐらついているのか一人で百面相をしている。

「どうするんだ」
「…行きます」
「よし、良い子だ」

ご褒美だと頭を優しく撫でてやれば谷地は可愛く笑った。ああやっぱりこいつは笑顔が一番可愛い。さっき自分でキスはお預けと言ったばかりだと言うのにキスが名残惜しくなっている。必死でキスしたい衝動を抑えていると谷地がもじもじと何か言いたげな動作をしていることに気づく。どうした、と首を傾げれば谷地は恥ずかしそうにゆっくりと口を開いた。

「キス…頬にするのも駄目、ですか?」
「…っ」

可愛すぎた。頬をピンク色に染めて上目遣いでそう聞いてくる谷地はあまりにも可愛くて。俺は我慢できずに谷地の美味しそうな唇に自分の唇を押し当てた。


きっと君は俺のファム・ファタール

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ファム・ファタール:運命の女
くろやちちゃん書いてて楽しかったですー!初谷地ちゃん受けがくろやちになるとは思いもしませんでした(笑)




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