▽黒尾視点


隣を歩く彼女が突然足を止めて見上げたその先にはセクシーな下着を身につけたマネキンが飾られたショーウィンドウ。失礼だとは思うが彼女が身につけるには少しばかりセクシーすぎるのではないかという疑問に彼女は分かってますよ、と言わんばかりに頬を膨らませてすねてしまった。言葉に出したわけではないのに気づかれたのは多分表情に出てしまっていたせいだ。さて、どうしたものか。彼女のご機嫌取りは簡単ではない。しばらく考えてみたが何も思いつかなかった俺は仁花の頭を撫でながら「いずれおっぱいが大きくなれば似合うようになるから大丈夫大丈夫」と冗談を口にしてみたら逆効果だったらしくぷいっとそっぽを向き、そのままその下着ショップに入っていってしまった。

「あ、ちょ、仁花…!」

女性ものの下着ショップの前に一人取り残された俺。中の様子を探ろうとショーウィンドウに近づき店内を覗き込んだ俺に、店内にいた店員が鋭い視線を送ってきた。不審者と思われたらしい。確かに女性ものの下着しか置いていない店の前で男がうろついていたらそりゃ確かに怪しい。気づいたときには既に遅かった、店の前を通る人々(特に女性)が俺に不審者を見るような目を向けていた。

店内をチラリと盗み見ると仁花はまだ出てきそうにないことが分かる。何着か下着を持って店員と楽しそうに談笑している。

(どっか移動して待ってるか…)

このまま店の前で待っている勇気などどこにもない俺は少し歩いた先にある小さな公園で仁花を待っていることにした。メールを入れておけば、俺の姿がすぐに見えずとも不安になることはないだろう。
仁花に公園で待ってるというメールを送った後俺は静かに下着ショップの前から公園に向かって歩き出した。その俺の様子を見た周りの連中がほっとしたような表情を浮かべて何事もなかったかのように歩き出したというのは知らないフリをしておこう。

***

しばらくして仁花がさっきの下着ショップで買ったであろう下着が入った可愛らしい袋を腕に抱えて現れた。まだ表情がむすっとしているところを見ると俺の先ほどの一言をまだ許してくれていないらしい。悪かった、と一言真剣に謝るが仁花はまだ許してくれそうにない。

「…黒尾さんは、胸の大きな女性が好みなんですよね」
「え?どうしてそうなる?」
「さっきの一言、そんな感じの意味合いに聞こえました」

誰も胸の大きな女性が好みとは言っていない。まあ確かに嫌いではないが、あればいい、という程度で好きになった女の子が小さかろうが大きかろうがそんなことはどうでもいい。胸の大きさで付き合う女の子を決めたりはしない。
だが言葉が足りずに仁花を不安にさせてしまったのならそれは自分が悪い。もっとちゃんと伝えれば良かったのだ。無理に大人になろうとなんてしなくていい。無理に色っぽい下着を買ってつけたりなんてしなくていい。

「俺は今の仁花が好きだ。胸が大きい小さいとかは関係なく、仁花という人物が好きだ。無理に大人にならなくていい、今のままでいて欲しい。今の仁花がたまらなく可愛いと思ってる」

少しクサかっただろうか。こんな台詞、人生でそう何度も言うことはない。自分で言っといて今更恥ずかしくなってきた。仁花はどんな反応を見せてくれるのか、ガラにもなく緊張しながらうつむいた視線を上に戻すとそこには頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませた仁花。

「恥ずかしいです、けど。嬉しい…」

そう言って泣きながら笑う仁花は何だかとても綺麗で。少し大人に見えた。
俺は仁花を包み込むようにそっと抱きしめ、これから先も傍にいることを誓って赤い頬にキスした。その瞬間仁花の頬の熱がまた上がったような気がした。


可愛いからそのままでいて
title by リライト

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しぐれさんのお誕生日ということでしたので勝手ながら書かせて頂きました。素敵な一日になりますように。お誕生日おめでとうございます!!




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