▽潔子視点


気持ちを表現するのが下手で無愛想な私に、まるで犬みたいにはしゃいで懐いてくれる田中と西谷が愛しかった。決して気持ちを伝えるのが上手くない私の冷たい反応にも二人はいつも笑顔で接してきた。ガン無視しても二人は逆に嬉しそうに微笑んで私の名前を呼んでくれた。それがとても嬉しかった。

けれどある日突然西谷が私の姿を見ても飛びつかなくなった。田中は相変わらず私の姿を見つけてば声を掛けてくるのに西谷は何故か声を掛けてこない。別にそれがおかしいことではない、周りと同じような対応になっただけの話。飛びついたり田中と一緒になって馬鹿言ってふざけ合ったりしなくなった、それだけの話なのに。私の心にポッカリと穴が空いたように、何か大切なものを無くしてしまったかのような感覚。いつの間にか私にとって彼が大切な存在になっていたことに、今更気づいてしまった。ポッカリと空いてしまった穴を塞ぐにはどうしたらいいのか、初めてこんな経験をした私に分かるはずもなく、大切な何かを無くした感覚を残したままマネージャー業に専念することにした。


「きっよこさーん!!!今日もお美しいっす!!!」
「………」

数日経った今でも田中だけが私のところへ飛びついてくる。田中が嫌いなわけじゃない、けど。西谷が田中の隣にいないことが自分でも驚く程に辛い。西谷が満面の笑みで「潔子さん」と呼んでくれることがどんなに自分にとって幸せだったか。
今更…、全て今更すぎたのだと思う。気づいたところでもうどうしようもない。彼はもう…西谷は私じゃない他の女の子を視界に映すようになったのだから。最近のバレー部の活躍は目まぐるしいもので、ファンが急増しているのは知っている。きっとその中に西谷のファンもいるはず。そして男の子が、自分の気持ちに素直な女の子に惹かれるのは当たり前の話で。無愛想な女の子よりも素直な女の子の方がいいのは普通のこと。

(駄目ね私って…何でこんなに素直になれないの)

「…きよ、こさん?何で泣いて、っ」
「え、あ、私…泣いて…?」

田中のその言葉と明らかに動揺した表情で自分が泣いていることに気づいた。頬にそっと触れれば生ぬるい雫が指を濡らす。ああ、泣いているのか自分。人前で涙を見せるなんて絶対にしたくなかった。泣いている本人よりも田中の方が動揺してあたふたと変な動きをしているお陰か私は妙に冷静でいられた。
私と田中の異変に気づいたらしい周りもこちらに向かって歩いてくるのが見える。私は急いで涙をぬぐい「大丈夫だから」と田中に一言告げてその場から離れようとしたとき突然目の前に現れたのは西谷だった。ものすごい勢いで私の後ろにいた田中に飛びかかる。私が田中に泣かされたと勘違いしているらしい西谷を私は急いで止める。

「違うから、落ち着いて。田中は悪くない」
「じゃあどうして!そんなに辛そうな顔してるんですか!!」

泣きそうな顔でそう問われて、私は思わずまた涙をこぼしそうになった。久しぶりに言葉を交わせたのが嬉しい反面、彼がもう私じゃない誰かを想っていると思うと、こうして心配してくれる優しさが辛い。中途半端に優しくされるとどうしていいか分からない。辛くて、苦しくて、もう思いが溢れ出そうになる。

「西谷が、私から離れていってしまった気がして、辛くて、苦しかった、」
「潔子、さん…」
「おかしいの私。西谷が近くにいないと落ち着かないの」

一度思いが溢れ出ると止まらない。自分が自分じゃないみたいに思いを口にしてしまう。西谷は驚いたような表情で私を見つめている。突然こんなことを言われて戸惑わないわけがない。迷惑になってしまったのかととても不安になる。もう、自分が何を言いたいのかも分からない。頭の中はぐちゃぐちゃで、涙も相変わらず瞳からこぼれ落ちる。いつからこんなに弱くなったんだろう。
その場から逃げるように走り出した私の腕を誰かが掴んだ。

「にしの、や?」
「俺が!!潔子さんから離れるなんて考えられません!!!最近近づかないようにしてたのは、潔子さんの傍にいると、その、あまりにも潔子さんが可愛いので抱きつきたくなったり、キ、キキキ、キスとかしたくなるので…距離を置いていたというか…」

しどろもどろにそう口にする彼の視線はあちこちに動き回り、顔は驚く程赤く染まっていた。私まで釣られて赤くなってしまい視線が下にいってしまう。掴まれた腕がジンジンと熱を帯びていく。チラリと彼を盗み見ると西谷と視線が合う。その途端に私と西谷は視線を外して、更に顔を赤くする。それを何度か繰り返した。
そのうちにいたたまれなくなった田中が一言「おめでとうノヤっさん」と泣きながら口にしたのをきっかけに周りで事の成り行きを見守っていた澤村達に拍手で祝福されるというなんともいえない状況になってしまった。

「…あの、改めて言わせて貰いますけど、潔子さんのこと大好きです。世界中の誰よりも一番愛してる自信あります!!」

ニカッといつもの彼らしいとびきりの笑顔で、思わず赤面してしまうストレートで大胆な台詞。今の私にはもう迷いなんてない。答えは既に決まっている。

「これからもよろしくね…西谷」


君に恋して、君への愛を知る

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ノヤさん誕生日おめでとー!!男気あふれるノヤさん大好きです。潔子さんすきすき!!なところも大好き!これからもノヤさんの活躍期待してます(^O^)




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