▽月島視点


誰のものにもならない貴女だから、気になる存在になった。
田中さんや西谷さんから毎日のように送られる「素敵です」「美しいです」の言葉は完全無視。たまに部活中に他部の生徒から呼び出されて告白されることがあっても清水先輩は絶対に気持ちを受け取ることはなかった。誰に愛を囁かれても落ちることはなく、清水先輩は高嶺の花のような存在で僕の中に有り続けた。

***

その日僕は体調が悪く、部活の終わり頃には少し動くだけでも軽くめまいを起こすほどに悪化していた。けれどそれを誰かに悟られるのも嫌だし、心配されるのも嫌だった為に表情に出さずに乗り切ろうと思っていたのだが少し甘く見ていた。まさかここまで悪化するとは思いもしなかった。

(…結構やばいかもね。視界がぼやけてる)

眼鏡をとって軽く目をこすって何度か瞬きをしてみるが変わらない。ぐにゃりと歪む視界。眼鏡を外したからか余計に視界が歪んで見えて気持ち悪くなる。もう立っているだけでしんどい。思わずしゃがみこんでしまいそうになるのを必死で我慢すると突然誰かに肩を叩かれた。

「清水先輩?…何ですか?」
「どうして無理するの」

振り向いてみれば、そこに立っているのはぼんやりとだが黒髪ロングで眼鏡をかけている人物だというのが分かる。立っていたのは清水先輩。表情までは分からないけれど、喋り方で何となく怒っているのが伝わった。口にした言葉からするとどうやら清水先輩には体調悪いのがバレてしまっていたようで、少し強めな口調で言われる。

「無理…?何のことかわからないんですけど」
「…嘘つき。そんな真っ青な顔してすぐバレる嘘つかない」

頬にひんやりとした、けれど柔らかい何かが触れた。清水先輩の手だった。
僕の頬に優しく触れながら今度は切なそうな声で「無理しないで」と口にした。本気で僕のことを心配してくれているのが分かった。きっと表情も泣きそうな表情をしているんではないかと思うと胸がきゅうと締め付けられる。
すいません、と一言だけ呟く僕に清水先輩は小さく笑いながら今度は頭を撫でてきた。恥ずかしくなって俯いてしまう僕を見てまた清水先輩は笑った。

「月島かわいい。弟ができたみたい…」

嬉しそうにそう呟く清水先輩だけれど僕の心は穏やかじゃなかった。「弟みたい」その一言が何故か僕の心に鋭く突き刺さる。…弟って言われたぐらいでどうしてこんなにも胸が苦しい。たかが部活のマネージャーに言われたぐらいで何なんだ。傷つくようなことじゃない。傷つくようなことじゃ…。
僕はそこまでで考えるのをやめた。これ以上考えたらその理由をはっきりと知ってしまいそうで怖かったからだ。まだ知りたくない。その理由は今知るべきじゃない。

僕は今はまだ知らないフリをすることにした。いつかちゃんと向き合えるときがきたら受け止めることにしよう。もう少しこのままの関係で、部員とマネージャーという立ち位置で。

(いつか、が来るそのときまではマネージャーとして僕達を支えてください)


嘘つきは知らないフリすることを選択した

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ツッキーお誕生日おめでとう!!!
Twitter企画のワンドロ/ワンライでした。




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