▽岩泉視点


練習試合以外で彼女を見たのは今日が初めてだった。うちと同じで練習は休みなのだろう、彼女は制服ではなく私服姿で一人歩いていた。制服姿かジャージ姿しか見たことがなかった俺にとっては彼女の私服姿は新鮮で、かなり貴重だ。髪型もいつもとは違う。普段一つに結ぶか下ろしているかの彼女の黒髪ストレートはふわふわと柔らかく巻かれていて横は編みこまれていた。私服もイメージとは違い白と薄い桃色メインのワンピースを着ている。だいぶ気合の入ったその姿にドキリする。

(あの格好は、デートか…?)

他校のマネージャーが何の用事で外出しているのかも、誰と会うのかというのも俺には関係のないことだというのに、先程から気になって仕方ない。
もしデートだとして相手は誰なのか、可能性としては烏野バレー部の三年だろう。よく一緒にいることが多かったのは澤村と菅原だ。あのふたりのうちどちらかなのか。それとも。
そこまで考えて俺は考えるのをやめた。何をそんなに一生懸命考えているのか。

(馬鹿らしい…もう帰るか)

自分の用事はすでに済ませてある。俺は帰路につくことにして、歩き出した。彼女に気づかれることなく、声をかけることなく帰るはずだった俺だがそれができなくなってしまう状況に陥った。彼女が厄介な人物に声をかけられているのを見てしまったからだ。

「…どいてください。人と待ち合わせているんです」
「いいじゃん、ちょっとぐらいさ!お茶するだけだし〜」
「すいません、急いでいるので」

彼女があからさまに嫌悪感を露わにしているというのに動じない見るからにバカっぽい二人組。チャラチャラと無駄にシルバーやらゴールドの金属を身につけているあたり、まともに話しても潔く引き下がるタイプには見えない。だが彼女にはどいてくださいと頼むぐらいしかできることはない。いつものように、あのバカ及川にやったようにガン無視すればいいと思うが、あの手のタイプは逆ギレするのがオチだろう。それをわかっていて彼女はガン無視はしなかったんだ。

(流石だな。キャーキャー騒ぐだけの及川ファンの女子とは違う)

どんな状況にも凛として対応する彼女の姿に何故か嬉しくなり頬が緩みそうになるがそれどころではない。いつまでも見ているだけというわけにはいかない。彼女一人でどうにかできる相手ではないんだ。面倒事に自分から首を突っ込むことはあまりしない俺。ナンパ男から女の子を救い出すなんて少女漫画にでも出てくる男のようにかっこよく助けられる自信なんてどこにもない。だが彼女をそのままにすることなんてできるはずがない。いや、したくない。それに。

(どんな反応をするのかも気になる)

俺の姿を見て彼女は一体どんな反応をしてくれるのだろう。彼女の視界に俺一人だけを映す瞬間、どんな表情をするのだろう。考えるだけで気持ちが高ぶる。

「ヒーローにはなれないが…いくか」

二人組に絡まれている彼女に向かって俺は一歩踏み出した。


生まれたての恋心

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餡子さんへ。
#RTした人にRTした人が今一番気になっているCPで小説書いてプレゼントする
初の岩潔さんでとても緊張したのですが楽しく書くことができました〜。RTありがとうございました!




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