最後に日向の視界にうつったのはあの見慣れたバレーボール。旭の放った強烈なボールが日向の顔面まっすぐに飛び込んできたのだ。顔面レシーブを見事に決めた日向は勢いのまま後ろに倒れこみ、慌てて部員達が駆け寄った時にはすでに日向は気を失っていた。ボールが当たったことで赤く色づいた顔が何とも痛そうで、いつもなら体育館の隅に寝かせて置くのだがこの猛暑日に体育館に寝かせるのはあまりよくないため保健室で寝かせることになった。そして付け足すように、マネージャーの一人である谷地に日向が目覚めるまで傍にいるように澤村は指示した。

***

日向が気を失ってから1時間ほど経った頃だろうか。日向は右腕に微かに感じる重みで目を覚ました。ゆっくりとまぶたを開けば最初に映ったのは白い天井。ぼんやりとした頭でなんとか自分に起きた出来事を理解した日向は今度はゆっくりと右腕に視線を移した。するとそこには静かに目を閉じて日向の右腕を枕がわりに眠っている、谷地の姿。

「あ、え、えっ?や、谷地さん?」
「…んん」
「ずっと、ついていてくれたってこと?」

寝てしまうほど長い間傍にいてくれたのかと思うと心が温かくなり嬉しい気持ちが膨れ上がる。起こさないようにそっと腕を抜いた後しばらく谷地さんの寝顔を眺める日向。まじまじと谷地の顔を見るのはこれが初めてである日向。
長い睫毛に、白い肌、柔らかそうな唇。その全てが改めて谷地を一人の女の子だと日向に意識させる。急に日向は恥ずかしくなり距離を置こうとするが、目が離せない。あの唇に触れたらどんな感じなんだろう。どんな味がするんだろう。欲求が膨れ上がり日向を誘う。

「駄目だって、わかってるのに…」
「……」

気持ちよさそうに眠っている谷地さんの唇が時々息を吸い込むために薄く開く。日向の唇もそのまま吸い寄せられそうになる。自分で駄目だと分かっていてもどうしようもできないくらい日向は谷地の唇に惹かれていた。どんどん距離が近づいていく。あともう数センチで触れそうというぐらいの距離のとき谷地は目を覚ました。慌てて離れたおかげと、起きたばかりでまだ寝ぼけていたおかげか谷地は気づかず「気づいたんだねよかった!」と嬉しそうに笑いかけてきた。そんな谷地に日向はホッとする。

「ありがとう谷地さん!ずっと傍にいてくれて!」
「ううん大丈夫だよー。日向の怪我が大したことなくてよかった!あ、私皆に日向が起きたって伝えてくるね!日向はまだ動いちゃ駄目だよ!」
「あ、う、うん!」

元気に保健室を去っていく谷地の後ろ姿を見送る日向。一人になった保健室で日向は先ほどの出来事を思い出して顔を真っ赤にさせた。なにしようとしたんだ自分は、と今更後悔する。だが谷地に気づかれなかったのがまだ救いだった。
そして日向は決意する。二度と顔面レシーブで気を失うもんかと。

一方の谷地は保健室のドアの前でしゃがみこんでいた。それも顔を真っ赤にして。
あのとき谷地は起きていたのだ。日向のガン見攻撃に起きるタイミングを失ってしまう寝たふりをする羽目になってしまった。そんな谷地は日向がどこか別の方向を向いたときにでも起きようと思っていたのだ予想外のことに驚き、早々目を開けることになってしまったのだ。予想以上に近い距離に内心驚きつつもなんとか平然を保ち保健室から逃げることができた。

(どうしよう、すごくドキドキしてる…)

加速する胸のドキドキがいつの間にか心地よいものに感じる。谷地は胸に両手を当ててその音をしばらく感じたあと部員達が待つ体育館に向かって歩き出す。

何か新しいことが始まりそうな予感に胸が踊り、自然と笑顔になる谷地だった。


青い春、強襲
title by レイラの初恋




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -