その日も何事もなく一日を終えるはずだった。そう、―そのはずだったのだ。


教壇に立った教師が一つ二つ注意事項を口にしているのを何となく聞きながら谷地は外を眺めていた。ほかのクラスはもう既に終礼をやったらしくちらほらとグラウンドに部活動を始める生徒が姿を見せ始めていた。その様子を見ながら自分がマネージャーを務めるバレー部ももう部活が始まっているんだろうか、と少し気になった。

「きりーつ!礼!ありがとうございましたー!」

少し考え事をしているうちにいつの間にか話が終わったのか、日直の生徒が終わりの挨拶をしていた。谷地も慌てて立ち上がりお辞儀をした。
通学鞄に数冊課題に使用する教材を入れてから立ち上がると谷地は体育館に足を運ぼうと教室を出た。しかしそこで谷地を待っていた影山によって行き先は変更されることになる。いつになく真剣な表情を浮かべる影山に谷地も自然と顔が強ばる。どうしたの、と尋ねようとした瞬間影山はゆっくりと口を開き裏庭に来て欲しいと一言。何でと聞く暇もないぐらい、影山はその一言だけを口にするとすぐに背を向けて歩き出した。

「え、…え?か、影山君が私に話って何だろう…」

あまり喋ったことのない影山からの呼び出しに少しビクつきながらも谷地は足早に影山の後を追った。

***


「あ、あのそれで話って何、かな?」

先ほどよりも真剣、というより緊張した面持ちの影山に谷地は静かに尋ねると影山は深い深呼吸を一つした後口を開いた。

「俺、谷地さんが好きだ」
「…え、?」

全く想像していなかった言葉が谷地の耳に響いて離れない。驚きを隠せない谷地はなんと口にすればいいのかわからず視線だけがあちこち動き回っている。まるで影山への返事の答えを探すかのように谷地はとにかく自分の周りに視線を動かした。だが何を言えばいいのかなんて思いつきもしない。それ以前に自分の気持ちさえもよく分かっていないのだ。
気づけば谷地は影山に背を向けて走り出していた。彼から逃げるように必死で走った。

「あ!ちょっ!」

影山も谷地の後を追ってすぐに走り出した。だがこういう場面での谷地の走りは驚く程に早い。あっという間に校舎の中に消えていき、影山が下駄箱に着いたときにはもう谷地は上履きにはきかえていた。急いで影山も上履きにはきかえるがその間にも谷地はどんどん影山との距離を伸ばしていった。
二階への階段を駆け上がり三階へと続く階段に足を踏み出した瞬間バタバタという結構なスピードで走るような足音が聞こえてくる。影山がそっと二階の廊下を覗き込むと小柄な女の子が一生懸命走る後ろ姿が目に入る。

「谷地さん待てって!」

影山の今出せる限りの全力の叫びに谷地はやっと立ち止まった。だが振り向くこともなく、近くの教室に逃げ込んでしまう。だが影山からしてみれば好都合。たとえ鍵をかけられて中に入れずとも確実にそこにいることさえ分かっていれば十分。自分の思いを伝えることが目的なのだから。


「…答えは別に今出す必要はないけど、それでも俺の思いだけは聞いて欲しい」
「う、ん」
「最初は谷地さんのこと頭のいい同学年の女子としか思っていなかった。でも日向と喋っているときの谷地さんの笑顔が頭から離れなくなって、谷地さんと一緒にいる日向にいつの間にいらつくようになって、気づけば、谷地さんのことをずっと見てた。人を好きになったことないから、すげえ戸惑ってんだけど…気持ちだけでも聞いて欲しくて。突然ごめん。…先部活行ってるから」

とぎれとぎれでも必死に思いを伝えてくれた影山に思わず涙ぐむ谷地。影山のことは嫌いではないが男の子として見たことがなかった谷地だが、この告白を聞いてしまった以上影山を一人の男として見ずにはいられない。彼も男の子なんだ、と思わずため息と共にそう呟く。未だにドキドキと、恋の予感を感じさせるような心臓の音に心地よさを感じ谷地は柔らかい表情になる。そっと胸に手を当てトクントクンと心地よいリズムを感じながら谷地はそっと目を瞑り気持ちを落ち着ける。

だが目をつむっているその間は影山のことで頭がいっぱいで気持ちを落ち着けるどころかドキドキが加速していく一方だった。


ブレーキの効かない恋の行き先
(え、あ、あれ?か、影山君が頭から離れないよ…!)

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復活感謝企画。ゆみさんリクエスト。
影山の告白に恥ずかしくて逃げ回る谷地。リクエストありがとうございました。




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