▽菅原視点


朝練のとき、清水から日直で部活に遅れると連絡を貰った。遅れると言っても日直の仕事はそんなに掛かるわけでもないため、だいたい20分くらいだろうと予想していた。けれど40分近く経っても清水は一向に現れない。皆も気にし始めてチラチラと入口を見るようになってきて、集中力がかけてきているのが分かった。大地もそのことに何となく気づいていて、一回休憩を挟もうと声をかける。何故休憩をこのタイミングで取ったのか部員全員何となく気づいており、皆少し反省したようにうつむいていた。
俺は清水のことが心配になってきて大地に探してくると思わず口にしてしまった。練習を優先しろ、と言われるだろう。きっと。でも言わずにはいられなかった。

「任せたぞ、スガ。清水がいないと皆集中できないみたいだからな」
「分かった。すぐに連れてくるよ」

反対されるとばかり思っていた提案はあっさり許可されて、大地は笑って任せたぞと口にした。大地の言った皆、という言葉にはきっと大地と俺も入っているんだろう。大地も俺も清水がいないことに違和感を感じて上手く集中できていなかったのは確かだ。皆が皆、清水がこの体育館にいないことに不安を覚えていたんだ。
清水は俺達にとって、大きく、そして大切な存在にいつの間にかなっていた。

体育館の入口に向かって走る俺の後ろから西谷と田中の涙声のお願いしますが聞こえた。

***

時刻は17時10分。今日の授業は6時間目まで。日直の仕事はとっくに終わっている時間だ。清水は一体どこに行ったんだろう。とりあえず教室へ向かおうと走り出した俺。だけど微かに聞こえる清水の声にぴたりと足を止めた。清水の声が聞こえてきたのは教室ではなかった。教室といえば教室だけれど、そこはもう今は教室として使われていない場所。教材置き場となっていて普段教師が出入りするだけの人気のない場所だ。どうしてそこから清水の声が。
不思議に思いながら、そっと中を覗いてみればそこには清水ともう一人、見知らぬ男子生徒が立っていた。雰囲気からして告白されているらしかった。清水は美人だし今までもたくさんの男子に告白されてきた。それを俺は知っていたから驚きはしないけれど、今回はどうやら厄介な相手に捕まったなと清水に同情した。清水の顔を見れば分かる、もううんざりといったような表情でごめんなさいと何度も口にしている。だが相手は引き下がらずどんどん清水に迫っていく。

(もうこれ以上は見ていられない!)

人の告白に口をはさんではいけないと思って黙っていたが清水の困った表情をこれ以上見ているのが辛くなり思わずドアを開けてしまった。突然開いたドアに中の二人は驚いた表情でこちらを見た。

「あの、そろそろうちのマネージャー返してもらってもいいかな?」
「菅原…」

俺を見た瞬間清水はホッと力の抜けた柔らかい表情になった。その表情を見て俺もホッとする。だが相手の男は怒りで顔を真っ赤にして俺に掴みかかってきた。俺よりも少し背の高いその男は俺の首に手を当てると思い切り締め上げてきた。清水に緊張が走ったのが分かる。ガタガタと細い肩が震えて涙目になっている。そんな清水を見て俺は一体何しに来たんだろうと思う。清水を助けてあげたい、清水を護ってあげたい。そう思ってドアを開けたというのに。

「…だい、じょうぶだよ、清水。俺はいいから、早く体育館に…大地達が待ってるから」

精一杯の笑顔でそう口にしたけど清水は体育館に向かうどころか俺と相手の男の間に割って入ってきた。そして俺の前に立つと大きく手を広げて「私の大切な人に手を出さないで」と大きな声で相手の男に告げる。女の子である清水に護られている自分が情けなくなった、けれどそれと同時にとても頼りになる男らしくてかっこいい一面に俺は改めて一目惚れした。

「そいつが、清水さんの大切な人、か。そっか、分かった。乱暴してごめん」

清水の言葉にあっさりと相手の男は引き下がって、意外にも謝罪の言葉を置いて出て行った。あっという間の出来事に俺は未だに頭の中が整理できずにボケーッとしてしまう。清水はそんな俺の表情を見て小さく笑った。

「あ、やっと笑ってくれた」
「え?」
「清水ずっと怯えるか怒るかだったから。…あんな状況だから仕方ないけど」

俺の言葉に清水は「巻き込んでごめん」と辛そうな表情で謝ってくる。悪いのは清水じゃないのに。俺は自分の意思で、自分から割り込んだんだから。寧ろ満足しているぐらい。俺はしょぼくれる清水の頭をくしゃりと撫でたあと、さっきからずっと気になっていたことを聞いてみた。

「俺のこと大切な人って言ってたけど、それって仲間とかマネって立場でってこと?」
「…ひ、秘密」

カアッと耳まで赤く染めた清水の顔を見れば一目瞭然だった。それがどういう意味なのか、清水の口から直接聞くまで俺は黙っていることにしよう。好きだからこそ、直接言ってもらいたいから。

「清水。その答え、いつか聞かせて?」


君の口から紡がれるその答えを
(俺はずっと待っているから)

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復活感謝企画。あおさんリクエスト。
リクエストありがとうございました。




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