▽合同合宿/黒尾視点


どんなことをしても振り向かない彼女は難攻不落の砦のようだ。合同合宿での周りの男たちからのアプローチを華麗にスルーして様子がすげえ印象的だった。そんな俺も例外ではなく、周りの男達と同じように彼女に惹かれつつあった。

***

(あー、あっつ…結構くんな今回の合宿も…)
「うおおおお!!影山競争だ!!」
「あ、おい!お前今フライングしただろ!ふざけんな!!」

厳しい練習の後の昼休憩。ほんの少しの休憩時間を大切に過ごそうと各自が体をゆっくり休めている中、烏野の変人速攻を使う一年二人は元気に走り回っている。いや、梟谷の木兎も一緒だ。相変わらずものすげー体力だなと関心しつつ、休憩の時間まで走り回る落ち着きのなさにため息が出る。烏野のキャプテンも苦労してんだな。
俺は変人速攻コンビの走り回る姿をしばらく見た後、顔でも洗うかと体育館の外に設置されてある水道に向かった。蛇口をひねれば、当たり前のように冷たい水が出てきて俺の上がった体温を冷やしてくれる。顔を洗いついでに髪も濡らそうかと思い頭を蛇口の下につっこんだ俺は、タオルを持ってきていないことをようやくそこで初めて気がついた。

「あ、やべ」

流石にびっしょり濡れたこの頭で体育館に入ることはできないな。濡れた床で誰かが滑るかもしれねー。となると宿舎に戻って予備のタオルを持ってくるしかないが、宿舎の床を濡らすのも駄目な気がしてきて、完全に手段がなくなった。どうするかな、と考えていた俺の目の前に突然タオルが差し出された。研磨か誰かが気づいて持ってきてくれたのか、と横を向けばそこにいたのは研磨でも、音駒のバレー部員でもなく、烏野の噂の美人マネだった。

「タオル、ないでしょ?たまたま見かけて、困ってるみたいだったから」
「あ、どーも。正直言うとすげー困ってたから助かった」
「それなら良かった」

どこか安心したように微笑む彼女を見て俺の心が少しずつざわめき始めるのを感じる。今回の合宿で初めて見る彼女の笑顔。笑顔一つでこんなにも俺の心が揺れている。ゆっくりとだが、確実に彼女に惹かれつつある自分がいるのを改めて感じる。案外俺は単純にできているんだな、と一人笑みをこぼすと彼女が不思議そうに首を傾げて俺を見てきた。その傾げた首元を汗が伝うのが見えた。やけにその首元が色っぽく見えてしまい俺の視線を奪う。
思わず噛み付きたくなる謎の衝動。白くて柔らかそうな肌に自分の証とでもいうように歯型をつけてやりたくなる。きっと吸い付きたくなるほどにもちもちとした肌をしているんだろうと思うと今この瞬間にも飛びつきたくなってしまう。駄目だと分かっていても止まらないのが男という生き物なわけで。気づけば彼女の首元に口を寄せて汗を舐め取っていた。

「ひあっ。な、にするの…っ」

当たり前のように彼女は顔を真っ赤にして怒ったような表情になる。そして俺の頬に一発ビンタをお見舞いしてくれた。いつものクールな表情とは全く違い、真っ赤な頬に涙目の彼女。きっと今俺のことで頭がいっぱいなんだろうと思うと何故か嬉しくてたまらない。これから先もっと俺のことで頭をいっぱいにしたらどんなに気持ちがいいだろう。想像するだけであまりの楽しさに口角が上がる。

「可愛すぎんだろ…ますます手に入れたくなったんだけど俺」

今の俺の言葉できっと彼女の頭はまた俺で占領されたことだろう。ああ、やばいな、何かすげー楽しい。止まらなくなりそうだ。
俺は彼女の睨みつける攻撃を余裕の笑みでかわして、次はどんな言葉で頭の中を占領してやろうかと考え始めた。


きみを困らせる俺になりたい
title by 確かに恋だった

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復活感謝企画。夏さんリクエスト。
黒→潔で余裕綽々のクロ。リクエストありがとうございました。




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