▽菅原視点


恋に落ちるキッカケなんて案外単純で、きっとそれは自分の想像以上に身近に存在しているんだと思う。一瞬だけ見せる凛々しい表情や可愛い笑顔。転んでしまった彼女の体を支えてみると想像以上に細くて女の子って男と全然違うんだなあって気づけば気になる存在になっていたり、なんて。自分でさえも気づかぬうちに恋に落ちてるほど、キッカケというものはそこらじゅうに転がっている。

俺の想い人はバレー部のマネージャーである清水潔子。入学してからすぐに校内中で噂になるほどの整った容姿をもつ女の子だ。最初俺は清水をずっと遠い存在のように感じていたから言葉を交わすことすらできなくて、でも清水がマネージャーになってからは話すキッカケがどんどん増えていって、いつのまにか遠い存在だった彼女はとても近い存在になっていた。
けれど清水が俺の方を振り向いてくれる可能性は決して高くない。清水には好きな男がいるとなんとなく気づいてしまったから。清水のことが好きな俺は無意識に清水を視界にいれていることが増えていくようになって、清水がいつも誰を見つめているのか気づいてしまったんだ。

「また、大地のこと見てたの?」
「菅原…?」

今の俺はひどく情けない顔をしているんだろう。清水が心配そうに俺を見つめてきて、大丈夫?と小さく口にする。大丈夫大丈夫、なんて明るく笑って返事をしてみるけど全然大丈夫なんかじゃなくて。辛くて胸が張り裂けそうなぐらい痛くて、どうしようもないぐらい清水が好きなんだと思い知らされる。清水が大地のことを見つめていたように、俺もずっと清水を見てきた。大地を見つめているときにたまに見せるやわらかい笑顔。その笑顔は横から見てもすごくかわいくて。できることなら横顔ではなくて、俺に、真正面から見せて欲しかった。笑いかけて欲しかった。

「清水は大地のこと好きなんだよね。ずっと見てたから分かるんだ」
「…菅原勘違いしてる。澤村のことは好きだけど恋とかじゃない。菅原は気づいてないかもしれないけど、私菅原のことだってちゃんと見てる」

少し怒ったように清水は言った。見てたのは大地だけじゃない、俺のことも見ててくれた。それがたまらなく嬉しくて。そしてそれと同時にすごくほっとした。清水の好きな男が大地じゃないってことに。けれど、それじゃあ他に好きな男がいるんだろうかとまた新たな不安が生まれてしまう。俺はものすごい勢いで自分が臆病になっていることに気づいてしまった。

「…それに」
「それに?」
「好きな人は目の前にいる菅原、だから」

ガンッと鉄パイプか何か硬いもので殴られたかのように頭に衝撃が走る。夢でも見ているのかと思い、お決まりのように俺は頬をつねった。けどこれはちゃんと現実で、夢なんかじゃ全くなくて。ああもうこんなに幸せな気持ち初めてだ。俺が好きな女の子も、俺のことを好きでいてくれる。俺が想っていたのと同じように、清水も俺を想ってくれていた。こんなに幸せでいいのだろうか。

「俺でいいの?清水は美人だしもっとお似合いの男…あ、ほら。音駒の黒尾とか」
「…反対に聞くけど私が他の男と付き合っても菅原は平気?」

そんなの嫌に決まっている。清水のことがたまらなく好きなのに、大地に奪われるのだって嫌だっていうのに、他校の男に奪われるなんてとんでもない。きっと気が狂ってしまう。俺が必死に首を横に振ると清水は嬉しそうに笑って、「じゃあそんなこと言わないで」と口にした。その表情を見て改めて清水は俺のことを本気で思ってくれているんだと実感した。

「清水、ありがとう。俺の気持ちはもう分かってると思うけど、伝えていい?」
「うん」
「…清水が好き。付き合ってほしい」

俺の言った言葉に清水は俺の一番好きな笑顔を見せてくれた。この笑顔が俺の言葉への返事なんだと思う。ありがとう、清水。俺のこの幸せな気持ちを清水にもきっと感じさせてあげるから。これからも俺の傍で笑っていてね。


胸を焦がすその感情の名は
(Hello,my name is LOVE!)

title by レイラの初恋

−−−−−−
復活感謝企画。花火ちゃんリクエスト。
リクエストありがとうございました。
一秋か菅潔ということでしたが今回は菅潔にさせて貰いました〜。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -