▽三年卒業/西谷視点


俺の好きな人は俺の一つ上の先輩で。いつもクールな表情を浮かべているけどもうひとりのマネと話しているときの潔子さんは最高に可愛くて。俺はいつもその笑顔を見ることが楽しみだった。だから今日という日を迎えるのがものすごく辛くて仕方なかった。けれど潔子さんがこれから新たな旅立ちをすることを祝ってやることができないのは駄目だと思う。

(寂しいと、口にするな。泣くな笑え)

そう何度も言い聞かせては俺は涙を拭った。裏庭で龍が俺と同じように寂しいとは口にしないで静かに泣いていた。知っていたが、あえて声はかけない。慰めあったところで何も変わりはしないから。

***

「卒業おめでとうございます潔子さん!!」

三年生最後の登校日。卒業祝いで買ったテディベアとか言うくまのぬいぐるみを渡したあと、俺と龍は本音に気づかれないように、涙は流さず笑顔でそう口にした。そのとき初めて潔子さんは俺達に微笑んでくれた。けれどその笑顔はどこか不完全で、潔子さんの瞳をよく見れば涙が滲んでいた。潔子さんは笑ってるつもりでいても、その笑顔はどんどん崩れていって。ついには涙が頬を伝い始めた。潔子さんは涙を隠すようにくまのぬいぐるみに顔をうずめ「泣いたりしてごめん」と震える声で口にした。

「ぎよご、ざん…!!!」

潔子さんのそんな姿に我慢できなくなった龍も泣き始めて、俺も釣られるようにして泣いてしまった。うるさいほど声をあげて泣く俺達。周りで俺達の様子を不安そうに見ていた奴らも泣き始めた。その光景を見て、改めて潔子さん達の卒業が現実であるということを実感してしまって更に悲しくなる。ああもう本当にいなくなってしまうんだ。潔子さんにガン無視される幸せな日々はただの思い出にすぎなくなってしまうんだ。
そしていつの日か俺のこの潔子さんへの気持ちはただの思い出へと変わっていくのかと思うと切なくなる。今この瞬間、潔子さんのことが好きで好きでたまらないというのに。時間が経てばこの気持ちは思い出に変わってしまう。そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。

「潔子、さん。俺、」
「…なに?」
「必ず潔子さんのこと迎えに行きます!!もっともっと男らしくなって迎えに行きます!だから…潔子さんの隣は俺のために空けといてください!!」

静まり返る体育館。隣にいる龍はすげーアホ面してて、周りの連中は言葉を失ってただぽかんと口を開けたまま固まってしまっている。そして目の前の潔子さんは顔を真っ赤に染めて、小さく「待ってる」と返事をしてくれた。嬉しさのあまりつい飛びついてしまった俺はふと過去にビンタされたことを思い出しビンタを覚悟して目を瞑ったけど衝撃はない。感じたのは頬に柔らかくてほんの少し温かい感触。何かが触れた。それは潔子さんの唇だった。

「そんなには待てないからね」

恥ずかしそうにそう口にした潔子さんの頬に今度は俺がキスをした。

***

それから数年。俺も高校を卒業して大学に入った。大学でも勿論バレー部に所属しているが、高校の頃かなり濃いバレー部生活を送ったせいか大学での練習だけじゃ物足りずに今でも烏野高校に足を運んで高校生に混じって練習をしたりしている。その度に潔子さんにもしかしたら会えるんじゃないかと期待しては、会えずにしょぼくれて帰る。そんなに離れた場所にいるわけでもないのにどうしてこんなに会えないんだろうと何度も不思議に思った。龍も烏野に出入りしているらしいが、1回奇跡的に会えたと言っていた。相変わらず綺麗だったと嬉しそうに報告してきたのを思い出す。

「きっと、大学でもすげーモテてんだろうな」

優しい綺麗な音が一瞬で広がる感覚。

「……に、しのや?」
「っあ、」

俺を呼ぶその声は、ずっと俺が会いたくてたまらなかった人の声だった。周りの人の声や音が一瞬無音になって、その人の声だけが俺の耳にまっすぐに届いた気がした。呼吸することすら俺は一瞬忘れる。ゆっくりと振り向いて視界に入ってきたのは、やっぱり潔子さんで。綺麗なサラツヤな黒髪は前より少し短めになっていて、眼鏡はコンタクトに代わっていた。龍の言葉通り相変わらず綺麗で、俺のことを一瞬で虜にした。

「会いたかったです、すごく」
「…うん」
「あの約束、覚えてますか?」
「…覚えてる」
「じゃあ改めて言います。…潔子さんの隣を俺に歩かせてください」

言い終える前に潔子さんは泣きながら笑っていて、小さくはいと返事をした。ずっと、ずっと願っていたことがやっと叶ったんだと、俺も潔子さんと同じように涙を流した。


貴女のほほ笑みに永遠を見つけたよ
title by レイラの初恋

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復活感謝企画。茉里奈さんリクエスト。
リクエストありがとうございました。




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