その日は、地元の夏祭りがある日で監督なりに気を遣ったのかいつもより練習は早く切り上げになった。こんな大事な時期に…、と思ったが大事な時期だからこそ少しは息抜きも必要と言われ仕方なく俺も帰り支度を始めた。その支度をしているときに、千田が突然大声でみんなで夏祭り行こうと言い出した。ほとんどが賛成して、返事をしていないのは俺と東だけだった。

「別に俺はいいけど」
「…ああ」

東はあまり行く気じゃなかったけど、行くらしい。それはもしかしたら青葉が行くかもしれないという淡い期待をしていたからかもしれない。
そして千田は思ってた通り、外で俺達が着替え終わるのを待っていた青葉を夏祭りに誘った。一瞬ものすごく嫌そうな顔をした青葉だが、俺が少しくらいなら奢ってやるよと言ったとたん目の色を変えて行く。と短くそう答えた。こんのやろう・・・昔から食べ物のことになると素直になるんだからな。俺達はじゃあ5時に学校に集合と時間を決め、ばらばらに帰っていった。

***

「おーっす」
「なんだよ、樹多村かよ」
「何だとは何だ!何だとは!」

俺が来た瞬間あからさまにがっかりする千田たち。たぶん青葉が来るのを楽しみにしているんだろう、青葉がもしかしたら浴衣を着てきたりなんかしたり…そんな妄想をしながら。たぶん、というより絶対青葉が浴衣を着ることなんてない。女の子っぽい格好が嫌いな青葉は今まで一度も浴衣を着たことがないんだ。着てきたら奇跡だよな。

「あ、れ…?あ、おば…その格好?」

そんなことを思ったときに前から浴衣を来た可愛い女の子…が…。俺達の前でその女の子は立ち止まる。目の前にいるのは青葉だった。でも浴衣を着ている、女の子らしい格好をした青葉、だった。髪には花付きのカチューシャがついていて、顔は少し化粧をしているようだった。

「似合わないとか分かってるのでいちいち言わないでくれますか、樹多村先輩」

青葉がそう言ってキッと睨んでくるが、実際はその逆で、似合いすぎていた。今の格好で睨まれても怖くないし、寧ろ可愛く見える。その証拠に部員全員が頬を赤く染めてポーッと見惚れていた。

「…ちょっと、この沈黙はなんですか」

青葉が不機嫌そうに尋ねる。そんな表情もかわいいとか思っちゃう自分は相当重症だ。

「つ、月島すげえ似合ってる!」
「本当本当!ってことで、ヒット2本でデートお願いしまっす!」
「あ、じゃあ俺出塁3回!」

千田が嬉しそうにはしゃぐと他の部員もいつもの調子に戻りデートの提案をする。青葉もいつものように野球を何だと思っている!と千田たちを追いかける。青葉たちは夏祭りが行われている方面へと走っていった。

「…良かったな、東」
「…何がだ」
「分かってるくせに」
「そういうお前も顔が笑っているぞ」
「うっせ。それは東だって同じだ」

青葉の浴衣姿を見れて喜んでいることは最後までお互い認めず、反発し合っていた。そんな俺達を赤石はため息をついて見ていた。


∵人気者の君に妬く
(いつだって青葉は人気者)

title by 恋したくなるお題


》BACK
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -