榛名元希が在籍する武蔵野第一高校は今日が文化祭。朝早くから沢山の生徒が学校に来て準備をしている。勿論千代には、前日の夜にメールでそのことを伝えてある。誘いの返事はOK。榛名は携帯の画面を見ながら、ニヤニヤとしていた。


榛名のクラスは定番の喫茶店。しかしちょっと変わっている…その名も「男装執事喫茶-ラズベリー-」。その名のとおり女子は男装して執事になりきり、男子は執事の格好をする。これが意外とウケて、大繁盛。だが、繁盛しすぎて大混雑しているこの状況では千代が来ても気づかない。榛名は何とか、人ごみをかき分けて、廊下に出ることに成功した。
そのとき「元希さん!」と可愛らしい声が聞こえた。その声がする方を向くと、可愛いワンピースを着た千代の姿があった。いつも見慣れている制服姿ではないので、少しドキッとした。

「千代、可愛い」
「あはは、ありがとうございます。元希さんもその服似合ってます」

千代がそう言った。先ほどもそういう言葉を、榛名は周りの派手な馬鹿丸出しの女達に言われた。でも少しも嬉しくはなかった。けど、千代に言われると物凄く嬉しい。それほど千代に惚れているんだ、改めて実感させられた榛名。他の女の言葉なんていらない、千代の言葉だけを榛名は求めている。
榛名はにっと笑って、千代の手を引いた。千代もにこと笑い手を繋ぎなおし、仲良く歩き始めた。着いた場所は女子更衣室。千代を中に入れ、何かが入った袋を投げて渡した。

「あの、これは?」
「それに着替えろ」
「え、あ、元希さん?!」

それだけ言ってドアをパタンと閉める榛名。千代はとりあえず袋の中を確認することにした。そこに入っていたものは千代の予想を大きく、かなり大きく上回るものだった。抵抗はあったものの、榛名に言われたとおりに着替えることにした。

「も、元希さん…?」
「…千代似合いすぎ」

そう言う榛名の視線の先には、執事服を身に纏った千代の姿。髪は黒髪のショートヘア。ウィッグまで付けるという本格的なコスプレ。榛名が何故千代にこれを着せたのか、理由は簡単。

「可愛い千代がナンパされないように、予防線を張っとこうか、と思って。執事の格好なら、ナンパされることもないだろ?」
「う、うん?こんな格好しなくてもナンパされないんだけどなー…」

千代は少し考えてから榛名の手伝いをすることに決めた。榛名のクラスに戻り、榛名はまず自分の彼女である千代を紹介した。クラスメイトは榛名に彼女がいることを知らなかったので大騒ぎであったが、温かく迎え入れてくれた。千代は優しく微笑み、宜しくお願いしますと頭を下げた。癒しの笑顔にすでにクラスメイトは千代を気に入っていた。


「お疲れ様ーっ。千代ちゃん、今日はありがとうね。また遊びに来てね!」
「ありがとうございました!とても楽しかったです!」

文化祭が終わり、挨拶を済ませた千代は着替え帰り支度を始める。それが終わると、執事服を脱いだ制服姿の榛名が現れる。行くぞ、と一言いって、千代の手を引いて歩き出す。千代もその手を握り返し、榛名の隣まで小走りで向かう。

「楽しかったか?」
「はい、とっても楽しかったです!」
「そ、っか。良かった」

千代の笑顔を見れて満足そうな榛名。2人で笑いあって、それから他愛もない話をしながら色々な所を歩きまわった。


∵男装執事に大変身


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