西浦高校に入学して早一ヶ月。ようやく野球部の輪もいい感じになってきたところだが、俺と篠岡の関係は秘密だ。バレたらうるせえし、輪が乱れるのも嫌だから。
「篠岡。今日俺んちで夕食食べねえ?」
「え、いいの!久々にシュンくんに会いたかったの!」
俺との時間じゃなくてシュンに会えることを喜ぶなんて、少し…いやかなりショックだ。でもまあいいか。約束できただけ。
たまに俺の家に篠岡を呼んで夕食を一緒に食べたりすることがある。今日は篠岡の好きなグラタンを作ると言っていたから誘った。
「楽しみだなあ」
「…だな」
俺がそう言うと篠岡は驚いた顔をしていた。何に驚いたのか不思議に思い、なんだよと聞いた。
「阿部くんも私と食事するの楽しみにしてくれてるんだなと思ったら嬉しくて」
「うっせえ」
篠岡はふにゃとかわいく笑った。その顔と言葉にうっと言葉につまる俺。あーだっせえ。つーか…俺どんだけ冷たい男に思われてるんだよ。俺だって篠岡との夕食楽しみだっての。そんな事を思いつつ、俺と篠岡は練習に戻った。そのとき、俺達のやりとりをこっそり見ている奴がいるなんて俺は気づかなかった。
「お邪魔します!」
「いらっしゃーい、今日篠岡さんが来るって聞いて頑張ったのよ!ほら、あがってあがって!」
来て早々篠岡を引っ張るなよ…。なんか女子高校生みたいに騒いでるな。まあいいんだけど。
「へえ今日、タカ2回も転んだの?」
「そうなんですよ、阿部くん今日すごい張り切ってて!」
「ふうん」
お母さんは俺の方をみてにやりと笑う。なんか…嫌な予感がする。
「それはね、篠岡さんとの食事が嬉しかったからよ。さっき電話くれたときもいつもより声のトーンが高かったものねー」
「ああああ!ちょ、お母さん黙ってろよ!」
あ…!篠岡がびっくりしてる!俺のガラじゃねえよこんなの。お母さん次から次へと爆弾投下しやがってちくしょお…。
「ありがとうございました!」
「うふふいいのよ!いつもお世話になってるし!タカったらいつの間にこんなかわいい子つかまえて!」
ベラベラと恥ずかしいこと喋るなよ…。篠岡だって困ってるし。
「長々ごめんなさいね。ほらタカしっかり送るのよ」
「わかってる。行くぞ、篠岡」
最後に篠岡はお邪魔しましたと言って一礼した。こういうところも本当にしっかりしていると思う。これが篠岡が男女関係無く好かれる理由の一つなわけだ。
「悪いな、長々と」
「ううん、とっても楽しかったよ!ご飯もおいしかったし!阿部くんありがとう!」
「ああ」
やっぱり篠岡は笑顔がかわいい。誰にも渡してやらねえよ、とくに今尾行している奴らには。
「あれ、今こっち睨まなかった?」
「え、そう?水谷怯えすぎ」
「でもさ、篠岡と阿部がな…。まさかだったな」
「うん、田島が言ったことは本当だったみたいだね」
「「あぁ…」」
∵ひみつのおつきあい
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