もうそこまで暑い夏が迫っている。あっという間だったなぁなんて、今日一日だけでも3回目の台詞。それくらいあっという間に夏になってしまった。西浦野球部も毎日練習に励んでいる。きらきらと眩しいくらい楽しそうに練習をしている。その様子を水まきをしながら見ていると監督に呼ばれた。私はすぐに水を止めて監督の下に走っていった。
「何ですか?」
「あ、ごめんね千代ちゃん!仕事の邪魔しちゃって!」
「いえ、気にしないで下さい!」
いつも私にも気を遣ってくれる監督が、私は好き。皆も監督のこと尊敬してるし憧れている。こんな素敵な監督と出会えて良かったなぁって改めて思った。
「実はね、桐青野球部の偵察に行ってくれない?」
「桐青って…」
「そう!去年の優勝校!夏の大会で絶対避けられない相手だからね!」
「分かりました!」
監督は皆が勝つって信じてるんだ。だから桐青の偵察を私に頼んだ…やっぱりすごい。私ももっと頑張らないと。私はジャージから制服に着替え、4月から切っていない少し伸びた髪を横でシュシュでまとめ桐青高校に向かった。
あれ…着いたのはいいけど広すぎてどこがどこだかさっぱりわかんない。流石というかなんというか、本当に大きい。西浦も結構大きいなって思ってたけどそれ以上の大きさ。私は少し圧倒されつつも、グラウンドを探した。グラウンドは建物の向こう側にあった、けど・・・そこまでがとても遠い。歩いて歩いて、まだ歩いて…やっと着いたと思ったら私は目の前の光景に目を奪われた。
「す、ごい…」
フェンス越しだったが選手達のレベルの高い練習風景。選手一人一人に合った練習方法は、本当にすごかった。思わずフェンスに手をかけまっすぐに見つめてしまった。そして私は自然と笑顔になっていた。西浦の皆と同じように輝いている選手がここにもいると思うとすごく嬉しいな。
そんな千代の姿をいち早く島崎は見つけた。
「あれ?あの子、可愛くね?」
「んー?あれ〜あの制服ってうちのじゃないね」
「先輩たち何見てんすか?」
「あの子」
島崎が指差した方を見た高瀬はあっと声をあげ、その反応に知ってんの?と島崎は首を傾げた。
「可愛い子っすね」
「いや、知らないのかよ!」
「島崎さん、うるさいです」
「あ!あの子知ってる!前、西浦に行ったときに会った!」
「西浦になんの用事だよ?」
「知り合いがいるんです!それであの子、西浦野球部のマネージャーさんだった気がする」
「へぇ、そうなんだ。すごい可愛い子にサポートしてもらってるんだな」
「島崎さんが言うとなんかいやらしく聞こえるのは気のせいですか」
「いや、気のせいじゃないよ」
「山さんもそう思います?」
「うん」
「うわ、お前らひどくねぇ?」
こうしてどんどんと会話は広がり、非レギュラーもひそひそと千代の方を見て何か言っている。そんなことも知らずに千代は練習風景を嬉しそうに眺めていた。
∵可愛い偵察さん
(やっぱり野球はいいなぁ!)
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