好きな人の前では素直になれない少女、瀬戸水鳥。彼女は今日のために用意したチョコをどう渡そうかと前日まで悩んでいた。直接渡すのは恥ずかしすぎるため絶対にありえないと、最初からその渡し方は選択肢にはない。候補にあがっているのは、2つ。下駄箱に入れる方法と、机に入れる方法だ。だが下駄箱も机の中も誰かに見られる確率が高い。見られた場合の冷やかしの回避が大変なので、安全な渡し方を選びたかった。

「それで、私から渡すんですか?」
「あぁ、葵からならあたしからってバレないからな!」
「…でもそれじゃあ周りから見たら私から錦先輩にあげたみたいになりますよ?」

葵に言われて初めて気づいた。自分から渡したということは絶対に周りにはバレないが、葵と錦がいろいろと勘違いをされてしまうと思ったらその方法は絶対に駄目だと水鳥は思った。葵も水鳥のその様子を見て、この作戦は中止だなと理解する。水鳥は申し訳なさそうに葵を見るが、葵は特に気にした様子もなくニコと笑い返した。

「水鳥さんから直接渡されたらすごく錦先輩喜ぶと思います!」
「そ、そうか?」
「はい!好きな女の子からチョコ貰って喜ばない人なんていませんよ!」

元気いっぱいにそう言う葵に背中を押されるようにして、水鳥は休憩中の錦の下に向かった。錦は自分に近づく足音に気づき後ろを振り向いた。そこには真っ赤な顔をして立っている水鳥。錦は不思議そうに首を傾げる。

「どうしたぜよ、瀬戸」
「あの、さ、これ…」
「わしにくれるんか?」

ニカッといつもの笑顔で言われるとどうしても素直になれず水鳥はついそっぽを向き「義理でいいならな!」と大声で言ってしまった。可愛くない言い方だったな、なんて言ってから後悔し泣きそうになる。だが錦は突然立ち上がり水鳥の頭を髪がくしゃくしゃになるほど撫で回した。「何だよ」とまた可愛くない言い方をして錦を見た水鳥に錦は満面の笑みで言った。

「おまんのそういうところ好きじゃ」
「はっ?!」
「素直になれないところとかな」

林檎のように真っ赤な頬がさらに赤く染まり、それを見た錦は満足そうに笑う。遠くで見守っていた葵も嬉しそうに微笑んでいた。


不器用で可愛げない君だけど
(そんなところが愛しくて仕方ない)

title by Aコース

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2012/02/14:バレンタイン企画



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