バレンタインデーにちょうど恋次が現世に来ていた。現世についたとたん、町の甘ったるい匂いに耐えられなくなった恋次が向かった先は織姫の家だった。玄関から入らずいつものように窓から入ろうと窓に手をかけるが、鍵が閉まっていた。どうやら留守のようだ。出直そうと体の向きを変えたとき、織姫がちょうど帰ってきた。自分の家の窓の前にいる恋次を見て、にこりと笑いかけた。恋次はすまねえと苦笑いした。

「はい、狭い部屋ですがどぞ」
「すまねえな。突然押しかけて」
「ううん、大丈夫だよ。それよりちょうど良かった!」

織姫にそう言われ、首を傾げる恋次。何がちょうど良いのか、何かあったのか。そう思い、織姫に何がちょうど良いのかを聞くと織姫は笑って教えてくれた。

「今日はバレンタインデーって言って女の子が男の子にチョコレートをあげる日なんです!」
「ば、ばれ、ばれんた…?なんだそれ」

死神である恋次は現世のことをあまり知らない。だから勿論バレンタインデーもチョコレートも何かわからない。織姫は説明するより食べた方が早い、そう言って冷蔵庫から手作りらしきチョコを持ってきた。そのチョコレートはとても歪な形だった。色は普通だが匂いが普通のチョコと違う。しかし、初めてチョコを見る恋次にはそのチョコが普通とは違うことが分かるはずもなかった。一つ手に取り、口に放り込む。その瞬間にありえない苦味と辛さに涙が出る。声は苦しすぎて出ない、しかも硬いので噛み砕けない。

「み、みずっ」
「大丈夫恋次君?!ま、待っててね!」

織姫が大慌てで水を用意して恋次に渡す。その水を飲んでしばらくして落ち着いた恋次は涙目で織姫に聞く。

「す、っげえ味だ、な…。初めて食った」
「んー…今回のは自信作だったんだけどなあ…」

そう言って悲しそうな表情をする織姫に恋次は優しく笑いかけ、頭を撫でる。織姫はバッと恋次の顔を見ると、笑い返した。井上のペースで頑張れ、その一言が織姫は嬉しかった。

「今度上手くできたら、食べてくれる?」
「ああ、勿論だ。お前の作ったもんなら食べる」
「ありがと、恋次君!」


お前が作ったものならなんでも

−−−−−−
2011/02/14:バレンタイン企画



×