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バレンタインデーに想いを伝える女子もいれば、伝えない女子もいる。特別な日だからと言って告白する子はたくさんいる。でもそうすると、バレンタインデーが付き合い始めた記念の日になるカップルが大勢出てきてしまう。それでは、何にも特別ではないと千鶴は思った。だから、チョコレートは用意せずバレンタインとは関係ないもの…最近流行りのマカロンを作った。少し手間をかけて作ったから出来は結構良いと、自画自賛した。形は一つを除いて全て丸型、その一つというのはハート型。想いを口で伝えなくても、せめて形で示そうと思ったからだ。あげる相手は、平助だ。

「えっと、はい。平助君」
「あ、バレンタインデーか!ありがと!」
「どういたしまして。でも、チョコじゃないよ?」

千鶴がそう言うと平助は満面の笑みで、千鶴から貰ったものなら何でもいいと言った。彼女に想いを寄せている平助からすれば、バレンタインデーに何か貰えたことだけで十分だった。それに、手作りなら十分満足できる。平助はもう一度礼を言うと、教室に向かって走っていく。しかしふと立ち止まり振り向いた。

「どうしたの?」
「他の奴にもあげんの?」
「う、うん?土方先生たちにもあげようと思ってて…」
「そ、か…。俺が特別ってわけない、よな」

平助は少し悲しそうな顔でそう言った。千鶴が何か答える前に彼は視線を逸らして、歩き出した。先ほどの意味をまだ理解していない千鶴は、しばらくそこから動けなかった。彼の言った言葉の意味。ストレートに言い換えれば、『俺のことを特別と思ってほしい』ということだ。千鶴は涙が出そうになる。平助も自分のことをそう思っていてくれたことがうれしくて。
まだ中身を知らない平助は、あとで驚くことだろう。自分だけ他の者とは違う形のマカロン、そしてその量、そしてメッセージカードに書かれた内容に。ありったけの想いを込めたバレンタインとは関係のない特別な日。ハート型のマカロンに想いをのせて、『大好き』と伝えた千鶴に平助は笑顔を見せるだろう。平助が千鶴を抱きしめる10分前のちょっとした出来事だった。


ハート型のマカロン

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2011/02/14:バレンタイン企画



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