初めてお邪魔する恋人の家。遠慮がちに玄関に入れば仁王が嬉しそうに出迎えてくれた。恋人の姿に安心して笑顔を見せる桜乃に、仁王は慣れたようにスリッパをさっと出して桜乃の足元に置いた。律儀にお辞儀をして「ありがとうございます」と礼を言えば仁王は優しく微笑んだ。
***「わぁ…!すごく素敵なお部屋ですね!」
自室に足を踏み入れた途端桜乃は目を輝かせてそう口にする。今まで一度も自分以外の人間を部屋にいれたことがない仁王はそう褒められたことがないため少し恥ずかしそうに笑う。
「そうかのう?普通すぎてつまらんと思うんじゃが」
「そんなことないですよ。仁王さんらしさが出ていて素敵です」
桜乃は嘘は絶対言わない。純粋で素直だからこそ、桜乃の口から出てくる言葉は真実だけ。それを分かっているからこそ仁王は素直に喜べた。
桜乃は初めて入った仁王の部屋をグルリと見渡して、気になるものがあればあれは何ですかこれは何ですかと、好奇心旺盛な子供のように仁王に尋ねた。滅多に見れない桜乃のはしゃぐ姿に仁王は小さく笑った。
しばらくしてから桜乃はふと思ったことを口にする。
「そういえば、今日はご家族の方は?」
「今日はいないじゃき、のんびり過ごせるぜよ」
そう口にする仁王の顔はどこか妖艶で。桜乃はほんの少し恐怖を感じ、咄嗟に桜乃は部屋の隅に置いてあったDVDを見つけ、それを手にとり話題を作る。
「仁王さんって、ホラー系好きなんですか?」
「ん、わりと好きじゃな。気になるなら一緒に見るか?」
「え、わ、私はいいです!怖いもの苦手なので…」
「…ならこうして見ればいいじゃろ?」
小学生のときに入った地元のしょぼいお化け屋敷ですら腰を抜かした桜乃に、本格的なホラー映画など観れるはずもなかった。桜乃自身、自分にホラーは向いていないことを分かっていたので、大きく首を振り仁王の申し出を断るが仁王はニヤリと笑って桜乃を腕をつかんで自分の元に引っ張った。ものすごい勢いで引っ張られつい目を閉じていた桜乃がゆっくりと目を開けば、目の前には大きな画面。そして桜乃が座っていたのは、仁王の膝の間。案の定桜乃は顔を真っ赤にして戸惑う。あたふたする桜乃の様子をただ仁王は楽しそうに笑いながら眺めて、とんでもない発言を一言。
「これぐらいで照れてるようじゃ困るぜよ」
「え?」
「今日は桜乃食べ放題の絶好のチャンスなんじゃからのう」
桜乃はあのときの妖艶の笑みの意味、そしてそのときに感じた恐怖の理由をこのときになって初めて知ったのである。
今日キミ食べ放題−−−−
▽10万打:瀬名さん
リクエストありがとうございました。
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