俺は多分こいつとは一生分かり合えない。ヘラヘラと笑って空野の傍にベッタリな狩屋は、俺の苦手なタイプだ。極力話したくないし、話しかけたくもない。毎日のように空野さん空野さんと、空野を用事もないのに呼んで。空野は空野で、迷惑そうな顔一つせずに狩屋に笑いかける。何なんだ、空野は。用事もないのに呼ばれて、迷惑だと思わないのか。苛立つ俺はいつの間にか、狩屋を睨んでいたらしい。狩屋が俺の方へニヤニヤした笑いを浮かべながら近寄ってきた。

「つーるぎ君っ」
「何だ」

気色悪い笑みを浮かべて、こいつは何を考えているんだ。ちらりと空野を見れば、もう他の男と話してやがる。俺に向けるのと同じ、優しい笑みを相手の男に向けて楽しそうに話している。あぁ、胸が苦しい。何だ、この痛みは。苦しくて仕方ない。息がつまるようだ。

「空野さんのこと、好きでしょ」
「は?」
「あれ、もしかして気づいてない?」

つい間抜けな返答をしてしまった。狩屋の言っていることは俺にはよく分からない。俺が、空野を好き?そんなことあるはずがない。俺は誰も好きにはならない。恋愛なんて、くだらないものに現を抜かす暇はない。狩屋はどうしてそんなことを俺に言ったのか分からない。そんな冗談に付き合っている暇だって俺にはない。

「ずるいなあ、そうやって自分の気持ちを隠すなんて。俺に空野さんをとられるのが怖いの?だから逃げるんだ?」

何を言っているんだ。俺は空野のこと好きだと言った覚えもない。好きになった覚えもない。だが…何で今もこんなに空野のことが気になる。あんな女、どうでもいいはずだというのに。

「じゃあ俺が空野さん貰ってもいいよね?剣城君、手遅れになっても知らないよ」

俺に許可をとる必要などない。空野が好きなら、勝手にすれば、いい。だが、何でか胸の奥がチクリと痛む。空野がほかの男と話している姿を見たときと同じ痛み。何だって言うんだ。この痛みは、何だ。気持ち悪い、苛立ってくる。

「お前に空野は渡さない」
「やっと、本音言ったね剣城君。でも、俺も渡す気ないから」

気づけば口から出ていた言葉に狩屋はそう言った。何であんな女を好きになったのか自分にも分からない。だが、その好きになった女を狩屋にとられるのも気分が悪い。とりあえず、狩屋から潰すとするか。


胸が痛いよ、この世界
(だが嫌いではない)

title by 累卵

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▽30万打:モノクロさん
リクエストありがとうございました。
(111226)



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