確かに彼は呼んだのだ、カントクである相田リコの名前を。ただいつもの呼び方ではなく、下の名前を呼び捨てで。いつからそんなに仲良くなったのか。いや、元々日向は相田リコを下の名前で呼んでいた。だがそれはバスケ部を設立する前の話だ。今は、「カントク」としか呼んでいない。それなのに突然、前の呼び方に戻すなんて何があったのか。周りの人間が知らないところで二人に何があったのか。

そしてその後も少しずつ彼らは変わっていく。周りの人間も巻き込みながら。


1.被害者伊月
そう、あれはオレが忘れ物を取りに部室へ戻った日のことだ。中から話し声が聞こえてきて、声質からカントクと日向だってことはすぐわかった。けど話の内容が、もう、幼馴染以上の関係と勘違いしてもおかしくないものだったんだ。「日向君、そこの棚のそれ取って」「ああ、これな。ほら」「ありがとう」だとか、「あ、やっぱりそっちのやつだったわ」「ん、これだな」「そうそう、ありがとう」とか。そことかそれとか主語なしで何で相手に伝わるんだ?もうお前ら熟年夫婦だよ。早く結婚しちまえくそ。

2.被害者火神
先週の日曜日、勉強を教えてもらいに日向先輩の家に行ったんスよ。そしたら日向先輩らしい、戦国武将のグッズがいっぱいあって…すごいッスね、なんて隅々を観察したら、明らかに女物のマフラーと手袋があって。ハンガーを見ればいつだか誰かが着ていた気がするクマのTシャツ。これ誰のスか?って聞けば日向先輩、特に驚いたりもせず焦ったりもしないで、「ああカントクの」なんて言うからオレが逆に驚いた。何でTシャツなんか日向先輩の家にあるのか。オレが必死で考えていたら日向先輩は「データ整理しているうちにカントク寝ちゃって、朝風呂かしてやっただけだ」と言う。いやいやいや風呂なんて家で入ればいいじゃないスか。何でかしちゃったんスか!もうここまできたらカップルスよ!幼馴染とは言えないスから!


「ちょっと日向君!私が頼んだモーニングコールの時間忘れたの?!10分も早いんだけど!」
「なっ!10分ぐらいいいだろ別に!モーニングコールしてやってる立場なんだぞオレは!」
「そんなの関係ないわよ!決まった時間にしないでなにが立場よ!メガネ!」
「メガネは関係ないだろ!」

「あー…今日も、痴話喧嘩してるんスね」
「ああ、朝からずっとあの調子だ。でもあの二人はああじゃなくちゃな」
「喧嘩するほど仲がいいっていうことですね」
「…まあ、そういうことだな」


愛にも平和にもほどがある
title by 宇宙

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▽30万打:エルモさん
リクエストありがとうございました。
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