「そんな顔してたらサンタさん来ないよ」
クスクスと笑いながらからかうように不動にそう言ったのは、雷門サッカー部のマネージャーの一人である木野秋だ。不動は彼女が手に持っていたタオルを乱暴に奪いベンチに腰を下ろした。木野は、不動の機嫌をさらに損ねてしまった、と少し困ったような顔をして笑った。しかしすぐにいつもの温かい笑顔を不動に向けて、それから不動の口角を指で思い切り上げた。
「はい、笑ってー」 「いだっ、いだだだ、おいっ!おまっ、まじでいてえんだけど!」 「だってそんなブスっとしてるから。不動君だけサンタさん来なかったら可哀想だなって思って」
木野は楽しそうに笑って言うが、不動はあまりの痛さに涙目になっていた。だが木野は気にもせず、もう一度口角を指で押し上げようとする。流石に2度目をくらうのは御免だと思った不動は、木野が己の口角を押し上げる前に木野の口角を押し上げた。木野の顔に触れてしまった、という恥ずかしさがあとからこみあげてきたがそれを必死で我慢して、口角をぐいぐいと押し上げ続ける。
「いひゃいっ、やめ、ご、めんっ。もうげんか、いっ!」 「ザマーミロ。だいたい、サンタなんて子供だましじゃん」
冷めた口ぶりの不動に木野は、今度はでこピンを食らわせた。額を押さえて痛みに耐える不動に、木野はある人物を指差してそちらを向くように言った。不動がゆっくりそちらを向くと、そこには豪炎寺と鬼道の姿がある。二人とも普段見せないようなとびきりの笑顔で何かを話していた。一体あれがなんだというんだ、不動がそう尋ねれば木野は「二人にはサンタさん来たみたいだよ」と意味の分からない言葉を口にした。当たり前のように不動は馬鹿にしたように笑う。
「不動君なにその顔は!最後まで話を聞かないうちにそんな顔しないの」 「は?だってお前、言ってることおかしいだろ」 「いいから最後まで聞いて。サンタさんって、子供に幸せを与える存在でしょ?でも私たちはもうプレゼントを貰うような歳じゃない。けど、幸せを貰うことはできるのよ。サンタさんのように幸せを与えられる力を持っている人から」 「…それがあいつらの場合は誰なわけ?」 「妹さんね。…豪炎寺くんは、夕香ちゃん。鬼道くんは、音無さん」
それを聞いて不動はなるほど、と納得した。豪炎寺と鬼道が今日一日無駄に笑顔だった理由、それが妹だと言うなら何も疑うことはない。それほど二人は妹を溺愛しているのだ。不動は再び木野を見て、「お前は?」と聞いた。彼女は小さく笑って「不動君は?」と聞き返してきた。不動は小さく舌打ちしたあと、木野に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で言った。
「俺のサンタは木野みたいだ」
俺のサンタ、みーつけた
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