山菜茜は、シン様―…神童拓人に憧れを抱いている。それは今に始まったことではなく、随分前からである。山菜が誰に憧れていようが、浜野にはどうでもよいことだったのだが、ここ最近は山菜の神童に対して向ける視線が気になって仕方がない。山菜が神童を見ている、それだけのことにひどく胸が痛むのだ。だから時々神童ばかりを見つめる山菜の瞳を思い切り睨み付けてしまうこともある。つまりは、浜野は山菜に恋をしてしまったのだ。

「山菜って、そんなに神童のこと好きなわけ?」
「突然どうしたの、浜野君」
「少し気になっただけー」
「んー…好きっていうより、やっぱり憧れの方が大きい、かな」

山菜は笑って浜野に答えた後、すぐに神童にカメラを向けて撮り始めた。山菜が大事に持つカメラの中には、浜野の写真は1枚もない。いままで技を成功させる度に浜野は、「撮ってくれた?」と聞いたが、山菜は首を横に振ることしかなかった。最初に技を見せたときは相手にボールを止められた、だから撮ってもらえなかった。そう思っていたが、技を決めても撮ってくれないとなると神童は山菜にとって特別な存在だと思うしかない。

「山菜の場合はさ、憧れより好きの気持ちの方が大きいと思うな俺は」
「どうしてそんなこと分かるの?」
「いつも山菜のこと見てるから分かる」
「いつも?」

浜野は口に出してから後悔した。告白同然のような言葉、それを口にしたところで今の山菜の気持ちが変わるわけでもない。それに逆にぎくしゃくした関係になってしまったら、そう思うとまた胸が苦しくなる。どうにかして誤魔化さないと、そう思った浜野が顔を上げて山菜を見ると、山菜はふにゃりと頬を緩ませていた。どういう意味なのだろうか、浜野は笑みの意味が分からず固まってしまう。

「あのね、私もいつも浜野君のこと見てたの」
「へっ?俺、を?」
「うん。いつも頑張っててかっこいいな、って」
「え、あ、それって…俺自惚れてもいい?」

山菜の口からこぼれる言葉に浜野は涙が出るほど嬉しくて、けれどその涙を必死で我慢して、山菜に尋ねれば、彼女は笑って頷く。思わずガッツポーズをとる浜野を見て山菜はクスクスと笑った。

「あ、でも、山菜は神童が好きなんじゃ…」
「え?私さっきも言ったよね憧れだって。シン様は素敵だけど、憧れでしかないの。信じられない?」
「だって、山菜のカメラん中神童だらけじゃん」
「…じゃあ、私の携帯を見てくれれば分かるよ」

そう言って取り出した携帯を山菜は浜野に渡して、中を見るように促した。言われるがままに携帯を開く浜野が初めて見たものは、浜野がシュートを決めている瞬間を撮った写真。それが待ちうけだった。それだけではない、中には浜野が技を決めた瞬間だったり、速水と抱き合って喜んでいる瞬間だったり、さまざまな写真があった。浜野はそれを見てとても嬉しくなり山菜を思い切り抱きしめた。

「俺すっげ嬉しい。ありがとう、山菜」
「うん、私も嬉しい…好きだよ」
「俺も!…ちゅーか大好き!」


始まったばかりの恋物語
(ちゅーか、何でカメラじゃなくて携帯で撮ったわけ?)
(携帯は、いつでも身につけていられるものだから)

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▽30万打:佐藤さん
リクエストありがとうございました。
(111222)



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