とにかく暑かった、練習中にはもう立っていられないほどの暑さを感じた。その原因が何なのかはだいたい分かっていたけど、そんなことで休むわけにはいかない。体調管理もなっていないのかって、みんなに思われるのが嫌。女だから仕方ないと、甘やかされるのも嫌。だから、だからもっと頑張らないと。そう思ってたのに、皆のバッティング練習が始まったと同時に私はマウンドの中心で倒れた。立ち上がろうとしたけど、どうしても無理で足がガクガクする。
「…はぁっ。立、たなくちゃ駄目なのに…っ」
力を入れて立とうとしてもやっぱり無理。その時、皆が駆け寄ってきて手をさし伸ばしてくれた。女だからって甘やかされるのは嫌だから、差し出してくれた手が憎らしい。別に大丈夫、そう言ってみるものの立つことができない私は地面に倒れたままの状態でこんな状態じゃ練習の邪魔になるし、どうにかしないと思うんだけど、どうしようもできない。
「月島、保健室行くぞ。手、貸せ」
優しく手を差し伸ばしてくれる赤石先輩にも私は素直になれなくて。こんな自分が嫌になった。迷惑ばかりかける女、そうとしか思われてなかったらどうしよう。
「…俺が連れてく。ちょっと我慢してろ」 「え、…わあっ」
東先輩の低くて優しい声がしたと思ったら私は何故かお姫様抱っこをされていた。いつもよりずっとずっと至近距離に感じる東先輩。こんなに顔を近くて見たことがなかったから、新鮮。でも問題はそんなことじゃない。
「東先輩?あの、自分で歩けるんで大丈夫です」 「俺にまで嘘をつくな。月島、お前はもっと周りを頼った方がいい。周りの奴をどうしても頼れない時は俺を頼れ」
東先輩は私にそう言って、見たことがないくらい優しい笑顔を私に見せてくれた。その笑顔に何故か胸が締め付けられて、涙が出てきた。必死で声を殺して、涙も引っ込めようとするけど止まらなくて、私は情けないことに東先輩に抱っこされた状態で泣いてしまった。でも東先輩は何も言わずに、私の額にキスをしただけ。
「な、何ですか?」 「いや、あまりにも泣き顔が可愛くて」
あ、東先輩ってそういうキャラだった?イメージでは、クールで硬派。女子にモテるのに、お前はホモかと思うほど女子に興味がないって思ってたのに。失礼だけど東先輩も興味あるんだ…。
「ビックリしました」 「何に対してだ?」 「東先輩も女子に興味持ってるんだなと思いまして」 「…興味あるのは女じゃなく、月島お前にだ」
え?今何て言った?さらりとすごいこと言われた気がするけど気のせいですか。でも、東先輩の興味あるはどういう意味で言ったのか分からないし。単に興味があるってだけの話かもしれない…ていうかそうだ、きっとそう。
「…意味分かってるか?」 「え、あ、女で野球やってるのが珍しいから興味あるんですよね?」 「違う。こういう意味だ」
い、今私の唇に東先輩の唇が…重なった?夢?現実?妄想?そんなはずない、だって東先輩だしそんなことするのは考えられない。じゃあ今のは私の幻覚…熱あるからちょっとおかしくなってるんだ。そう、そうに決まってる。
「無防備すぎる。そんなに無防備だと、悪い男につかまる」 「わ、悪い男って…」 「例えば、俺、とか」
悪い男に騙されてはいけません (まさに東先輩は悪い男だ)
−−−−−− ▽10万打:みかんさん リクエストありがとうございました。
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