スリルと引き替えに失ったのは、二人だけの秘密。誰にも話さずにこっそりと、恋愛してきた俺達にとってはかなり衝撃的な出来事だった。まさか、まさかこんな形でバレるなんてな。
***ある土曜日の練習後、俺達はこっそりと部室で密会していた。全員帰ったことをしっかり確認してから、俺達は普段話せないことやできないことをする。できないことっていうのは、まあハグとかキスくらいだけど。でも、普段はあいつらがいるからできないわけで、となるとこの時間しかできない。かなり貴重な時間だ。そんな貴重な時間もあともう少しで終わってしまう。本当に真っ暗になって帰れなくなる前に、部室を出なければならない。名残惜しいが会話を終わらせて、俺は部室のドアノブに手をかけて思い切りまわした。だが、開かない。何で、だ?
「開かねえ」
「ええっ!…あ、そういえば栄口君が鍵壊れてるって言ってた」
篠岡は今思い出したらしく、顔を真っ青にして言った。鍵が壊れているとなると、俺達は明日の朝になるまでここにいることになる。別に一食、二食抜いても死にはしねえ。けど問題はそこじゃない。朝まで篠岡と二人きりでいることが問題なんだ。付き合っている男女が同じ空間で一夜を共にする、ということがどんなに重大なことか。篠岡は分かっているのか。椅子に座って俯いている篠岡を見ると、耳が赤くなっているのが見えた。…篠岡も分かってるな。
「…なあ、」
「えっ?!あ、な、なに?」
俺が話し掛けると肩をビクッとさせながら、反応する篠岡。意識しすぎな篠岡は、顔を真っ赤にして俺を見てきた。潤んだ瞳が可愛くて、俺は思わずニヤける。そんな俺を不思議に思った篠岡は首を傾げた。無意識にやっている一つ一つの仕草が可愛い。ふわふわの髪が笑った瞬間に揺れたりするのも、可愛い。篠岡が可愛くて仕方がない。
気づけば篠岡の頬に手をやっていた。そっと頬を撫でて、唇を近づける。篠岡は驚いてビクッと肩を上げるが、拒否はされない。このままキスしてもいいってことだ。目をつぶって無防備な篠岡の唇にゆっくりと唇を重ねようとした。が、その瞬間思い切り部室のドアが開いた。というより、蹴破られたと言った方がいいか。蹴破ったのは、巣山と花井。二人の後ろには他の奴らもいた。
「阿部、これどういうことだ?こんな夜遅くまで部室で何を…」
「えー花井分かんないの?セック「はいはい田島は黙ろうね」
「でもまあ、こんな遅くまで部室で二人きりでいれば…なあ?」
少し、というよりもだいぶ頬を赤く染めた花井が、助けを求めるかのように隣に立つ巣山に視線をやる。巣山も困ったように笑い、唯一冷静な泉に視線をやった。泉は冷ややかな目で俺を見てきた。だいぶ、頭にきているみたいだ。言葉にしなくても目で分かる。「篠岡に近づくな」と目がそう訴えている。
「…だから言ったじゃんかー。しのーかは阿部と付き合ってるって!」
「んなこと言ったって…篠岡が阿部と付き合うなんて考えたくないだろう」
「おいこら、どういう意味だ」
話の内容からして、最初は田島の話を信じていなかった、つまり篠岡が俺と付き合っているのを信じていなかったらしい。いや、信じたくなかったらしい。だが、今日その話が本当かどうかを調べることになった。そして、俺たちをわざと二人きりにして、俺たちの会話を盗み聞きしていた、そういうことになる。なら、どうしてもっと早く邪魔をしなかったんだ、そう聞けば花井達は恥ずかしそうに笑いながら言う。「あんまりいちゃいちゃしてるから邪魔しにくくて」と。だったら最後までやらせろよ。中途半端なところで邪魔してんじゃねえくそ。
「とりあえず、阿部」
「あ?」
「今から、俺たちの気が済むまで説明してもらうぜ」
「何の説明だよ」
「さっき、篠岡にしようとしたこと、とかその他もろもろ」
にっこりと、それはまあ清々しいほどの笑顔を浮かべた泉と、そしてぞっとするほどの笑顔を浮かべる栄口に両腕を拘束された俺に逃げ場はない。俺はそのまま泉たちに連れられ尋問のようなものを受けることになった。
一瞬で地獄へ真っ逆さま(天国のような篠岡との時間は、あっという間に地獄へ)
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▽20万打:レインさん
リクエストありがとうございました。
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