朝早く、秋はいつものように部室へと向かっていた。そしてそこで珍しい光景を目にすることになる。円堂が机に伏せて寝ていたのだ。顔のところどころが泥で汚れている。制服ではなくユニフォームを着ているところを見ると、朝早くに練習したらしいことが分かる。明日の試合が楽しみで仕方ない、そんな思いが伝わってきて秋は思わず、円堂くんらしい、なんて呟いて小さく笑った。そのとき円堂は小さく何かを呟いた。よく耳を澄ませば「秋」と呼んだ気がする。

「円堂、君?…なんて言ったの?」
「秋、、きだ」
「えっ?」
「……好きだ」
「…、っ」

驚きで声が出ない。思わず口を押さえて、今の状況を整理しようと必死で頭を働かそうとするが動かない。夢なのかも、そう思ったりもする。けれど目の前にいる円堂を見ると夢にしてはリアルで、夢でないことが分かる。どうしよう、そう思ったとき円堂がゆっくりと目を開けて寝ぼけた様子のまま秋を見つめる。しばらくして驚いた顔をして、頬を染めた。秋の驚いた顔を見て、寝言を聞かれたことを理解したらしい。お互いどう反応していいか分からず、俯いていると円堂が口を開いた。

「今の言葉、本当だからな」
「…え、」
「秋が好きだ」

今度ははっきりと言った。寝言ではなく、はっきりと。真剣な瞳に吸い込まれそうになる。秋は円堂のその瞳が好きだ。自信に満ち溢れているのに優しそうな瞳。その瞳はあまりにも綺麗で目が離せなくなる。そして円堂の言葉が秋の頭の中でリピートされた。

「円堂く、ん」
「何だ?秋」
「今の言葉、本当に…本当?」

秋が涙でぐしゃぐしゃの顔を円堂に向けて尋ねる。円堂はその顔を見てブッと吹き出し、髪をくしゃりと撫でた。そして「本当に本当だ」と言って笑顔で頷く。それを見た秋は涙を拭って綺麗に微笑み、円堂に抱きついた。


本当に本当だから信じて

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▽20万打:緋雨さん
リクエストありがとうございました。
(110905)



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