俺は、初デートは記念に残る場所にしたり、雰囲気のあるレストランで食事したりだとか、いろいろ気を遣うような男ではない。というより、そういうぐちゃぐちゃと考えることが苦手なんだ。デートなんてしたことない俺が、女の喜ぶデートスポットを知っているはずがない。いくら考えたって出てこないんだから仕方ない、俺は7組に向かって歩き出した。

***

「デートするならどこがいい?」

運よく篠岡が職員室に行っていてこの場にいない。そのことに感謝をしながら水谷に質問してみた。水谷は想像通りニヤニヤしながらいろいろと追究してくる。ごまかすのもめんどくさくなって正直に「篠岡とデート」なんて言ってみれば、それまで喋っていた阿部と花井まで俺の顔を見てきて、口はあんぐりと開いている。やっぱり知らなかったんだな。それもそうか。今まで上手く隠してきたんだから。

「泉、今何て言った?」
「篠岡とデート」

俺が短くもう一度答えれば、水谷たちは黒い笑顔を浮かべて俺を見る。「篠岡とねぇ…」そう阿部が呟いたとき篠岡が職員室から戻ってきた。大量のプリントを抱えて戻ってきた篠岡は、プリントが重いのかふらついている。見かねた俺が手伝おうとすれば、俺より早く花井が席を立ち、篠岡の手伝いに向かった。軽々とプリントを持ち上げる花井に、篠岡は笑いかけた。俺に向ける可愛い笑顔と全く同じ笑顔を。何か嫌だ。篠岡があの笑顔を俺以外の男に見せるなんて。そのとき俺は、表情に出ていたのかもしれない。

「意外と嫉妬深いんだな、泉」
「黙れ阿部」

ニヤリといやらしい笑みを浮かべた阿部にそう言われたんだから。けど、阿部の言葉は間違ってはいない。俺は確かに嫉妬してるんだ。篠岡が俺以外に微笑むのが嫌なんだ。マネージャーと選手って立場だから、俺だけ贔屓はできない。分かっている、分かっているけど、駄目なんだ。篠岡が俺以外の男に微笑む姿を見るのが辛い。

「余裕ないな俺」
「そうだな。けどまあ、いいんじゃねえの今は余裕なくても」

そう俺を励ましてくれる阿部。けど、顔は励ますどころか、俺をからかって遊んでいるような悪い顔をしていた。


俺の気持ちなんて知らない君は、
(楽しそうに笑う)

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▽20万打:ひなたさん
リクエストありがとうございました。
(111109)



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