祓魔屋に2日に一度は足を運んでいた雪男が来なくなって早1週間が経とうとしていた。塾で理由を問いつめようにも、上手くかわされてしまい分からずじまいで終わる。最近はこのパターンの繰り返しだった。しえみの深いため息に気づいていながらも雪男はどうすることもできずに、背を向けてその場を後にした。

***

最近何故雪男がしえみを避けているのか、それはあまりにも単純な答えであった。「ムラムラしてしまう」それが理由だった。雪男自身、自分にそんなものが存在するなんて夢にも思わなかっただろう。散々燐や志摩の発言を馬鹿にしてきた自分が今更そんなものの存在を認めるのがたまらなく悔しかった。そのムラムラが自分で抑えられるのなら別に会っても構わないが、しえみの傍にいくと抑えられないほど気持ちが高ぶるのだ。その結果、1週間も祓魔屋に足を運ばなくなったのだ。

「…兄さんのこと言えないじゃないか」
「燐がどうしたの?雪ちゃん」
「っ、しえみさん」

どれほど考え込んでいたのだろうか、教室の窓から見える空は暗く無数の星が光を放っていた。しえみに声をかけられて初めて気づいたのだ。まだ少し驚いた顔をしている雪男を見てしえみは優しく微笑んだ。その笑顔を見るとまた胸が締め付けれられる。雪男の中の理性が逃げて行きそうになる。必死に耐えて声を絞り出す。

「今は、近づかないで下さい」
「…どう、して?」
「理由は言えません」
「私が、嫌いになったの?」
「ちがいまっ、しえみさん!」

雪男の言葉はしえみを勘違いさせてもおかしくないものだったのは確かだ。誰だってショックを受けるし、涙を流す場合もあるかもしれない。しえみはそのパターンで、涙を流した。そしてその場から逃げるように走って行ったのだ。ものすごいスピードで廊下を駆け抜けたいくしえみを雪男は精一杯の力を出して追いかけた。ついに追いついたときには外に出ていた。荒い呼吸を繰り返して、お互いは顔を見合わせた。悲しそうな顔を見せるしえみを雪男は抱き寄せた。まだバクバクと心臓は鳴っておりしえみにもそれが伝わる。しみえが「雪ちゃん」と呼ぶと雪男は微笑んだ。

「僕は怖かった」
「なにが、怖い、の?」
「しえみさんを、傷つけてしまうかもしれないことがです」

意味が分からず首を傾げるしえみに雪男はまた笑った。その笑顔は少し悲しそうで切なくなるしえみ。しえみがそんな表情をすると雪男は「しえみさんは笑っていてください」と口にした。言われたとおり笑顔でいようとするけれど涙が出てきて止まらなくなった。雪男のさきほどの言葉がまだ忘れられないんだろう。その涙を拭うと雪男はしえみの頬に口付けた。

「しえみさんが好きだから、無理矢理自分のものにしてしまいそうで怖いんです。だから傷つけないために距離を置こうと思って…しえみさん?」
「…じゃあ、今のキスはどういう意味でしたの?」
「別れのキスです。少しの間の別れの意味で」

そう雪男が言えばしえみは笑った。笑った意味が雪男には分からなかった。しえみは雪男を見て口を開く。「好きな人に抱かれること以上に幸せなことはないんだよ。」そう言ったしえみは随分と大人びた顔をしていた。雪男が知らないしえみがそこにはいた。その彼女はゆっくりと口を開く。

「私を雪ちゃんのものにしてください」

その言葉の答えはもう決まっていた。雪男は幸せそうにはにかんで「喜んで」と囁いた。


意外にも大人な彼女
(僕が思っていた以上に、彼女は大人だった)

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▽20万打:みやちゃん
リクエストありがとうございました。
(110909)



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