▽南沢視点


どうぞ、と目の前に差し出されたそれは可愛くラッピングされたチョコレートだった。一瞬戸惑い受け取るのを躊躇った俺に山菜は無理やり押し付けてきた。
本命かどうかは山菜の顔を見ればすぐに分かった、だが。何で俺なんだろうかと。山菜は神童のことが好きで、多分神童も山菜のことが好きで両思いなんだとずっと思っていたからだ。全く俺にチョコをくれた意味が分からない。

「ただのチョコレートです。受け取ってください」
「いや、それは分かっている」
「それならどうして受け取るの躊躇ったんですか」

少し怒ったように口にする山菜に「まさか山菜からもらえるとは思わなかったんだよ」と正直に口にすれば今度は泣きそうな顔をした。傷つけてしまったと思った。だがそう思ったのは本当のことだし嘘を言っても仕方ないのだ。

「…山菜には、あいつがいるから」
「あいつ…?」
「神童だよ。いつもシン様〜って言ってただろう」

自分で言っといて胸が傷んだ。
神童を見つめる山菜の横顔をずっと見てきたことを思い出した。届かぬ思いを胸にずっと秘めてきた俺に山菜からのチョコレートは本当は嬉しくて仕方なかった。だがとても信じられなかった。山菜がずっと神童を見てきたことは事実なんだから。

「シン様は憧れ。南沢さんに対しての想いは、恋、なんです」
「やま、な」
「迷惑ですか?」

迷惑なんてありえない。俺も山菜に想いを寄せていたから。シン様シン様とあいつばかりを見る山菜の横顔をずっと俺は傍で見ていたから。その山菜が俺を好きだと言ってくれた。これ以上の喜びなんて。きっと無い。

「俺も山菜が好きだよ」
「南沢、さん」

俺の名を紡ぐかわいい唇にそっと俺は口づけると山菜は今日一番可愛い笑顔を見せてくれた。


愛を二人で奏でましょう

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2013/02/14:バレンタイン企画



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