▽虎丸さん⇔夕香さん呼び/虎丸視点
虎丸さんが最近目を合わせてくれなくなった。以前は目が合えば優しく微笑んでくれたのに、今では目があった瞬間に逸らしてしまう。私、何かしたかな。これといって思い当たることがないから、私も謝りようがない。
お兄ちゃんに相談してみようと思ったけれど、きっとお兄ちゃんのことだから「夕香を悩ませるな」とか言って虎丸さんのこと叱りそうだしやめた。私のせいで虎丸さんが叱られるのは嫌だから。でもそしたらずっと虎丸さんと話すことができない。
どうしたら前みたいに笑ってくれる?
***「「あ」」
お兄ちゃんに会いに来たら偶然お兄ちゃんの部屋の入口前で虎丸さんと会ってしまった。虎丸さんをこうして間近に見るのは1週間ぶり。だから私も虎丸さんも何を話せばいいのか分からなくてお互いに無言になってしまう。何か話さないと、と思うんだけれど口が思うように動かない。緊張で口の中が乾いてきて、余計に口が動かない。私はその場にいるのが辛くなって立ち去ろうと虎丸さんに背を向けた。
「ま、待って!」
「え…?」
「あ、そ、その、ごめん」
無視したりして、と最後に小さくそうつぶやいた虎丸さんはどこか切なそうな表情で私を見つめてきた。何で彼がそんな顔をするのか私には分からない。だって無視されて辛かったのは私の方なのに。どうして、彼がそんな顔をするの?どうして?
「僕は焦ってたのかもしれない。…どんどん綺麗になっていく夕香さんを見て、自分の気持ちもだんだんと大きくなっていくことに気づいて、このままじゃ貴女を独占したくなると思ったから距離を置いたんだ。でも、そのせいで貴女を傷つけた。」
そう言った後彼はまたごめん、と小さく呟いた。それを聞いた瞬間ホッとした私はきっと虎丸さんが好きなんだろう。彼の笑顔を見て胸が高鳴ったのも、彼と話をしているときに胸が熱くなるのも、全部全部彼が好きだから。そのことに気づいたら、急に私は虎丸さんの顔を見られなくなった。恥ずかしくて、顔なんかとてもじゃないけれど見れない。
けど目を合わせないのも感じ悪いわよね…でも、今は目を合わせられる自信がない。ああもう私のばか。
「夕香さん…?」
私を心配した虎丸さんが至近距離で私の顔をのぞきこんできた。
「…っ!!」
その瞬間私の頬が赤く染まった気がした。虎丸さんはやっと今の状況に気づいたのか、私と同じように顔を染め慌てて私から距離をとった。そしてまた私に謝ってきた。何だか今日の彼は謝ってばかりだ。思わず笑ってしまうと虎丸さんは不思議そうに首をかしげた。そんな虎丸さんがかわいく思える。同時に今までの虎丸さんの行動も可愛く思えてきた私は、彼に向かって言った。
「回りくどい言い方って好きじゃないんです。だから、分かりやすくお願いします」
「!!」
私の言葉に虎丸さんは目を開いて驚いた。それから口をもごもごと動かし始める。中々いえるような言葉じゃないのは分かってる。でも、その言葉は私が求めている言葉のはずだから、虎丸さんの口から聞きたい。ねえ、虎丸さん。教えて。
私が祈るような思いでそう願ったとき、私の求めていた言葉を虎丸さんはくれた。
「僕は貴女が好きです」
嬉しくて、涙があふれて、私はどうしようもなくこの人が愛しいと思った。
どうしようもなく愛しい
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