▽剣城視点
たまたま今日は運が悪かった。
兄さんがいる病院へ向かおうとした矢先、雨に降られた。それもどしゃぶりの。別に濡れることは構わないが、ずぶぬれになって行けば兄さんが心配すると思ったから俺は近くのコンビニで雨宿りをすることにした。10分ほど待ってみたが止む気配は一切ない。暇つぶしに店内を歩き回ってみると、見知った姿を見つけた。多分、山菜先輩。いつもの俺だったら話しかけないだろう。だが、今日の俺はいつもと違うようで、何故か話しかけたくなった。必死にカメラを眺めている山菜先輩に後ろから声をかけた。
「山菜先輩」
「えっ?!あ、剣城君。どうしたの?」
いつもと変わらないふにゃりとした笑顔で俺に笑いかける山菜先輩。どうしたのって聞かれても、特に用はない。俺は反応に困って黙っていると、山菜先輩はカメラを突然俺の目の前に出してきた。
「何、ですか」
「カメラ」
「いや、それは分かりますけど」
「雨に濡れて、壊れちゃったの」
俺が驚いて山菜先輩の顔を見ると、やはり泣きそうな顔をしていた。大事にしていたカメラだというのは皆知っていた。毎日いろんな表情のキャプテンを撮ってきたカメラが壊れたんだ、ショックを受けるのは当たり前のことだろう。けど俺にはどうすることもできない。カメラを直すなんて技術を持っているわけでもないし、慰めるのだって得意じゃない。どうすれば、
「隙あり」
「うわっ、ちょ、山菜先輩、っ」
「うふふ、水も滴るいい男ってね」
クスクス笑いながらシャッターを切った山菜先輩。カメラが壊れたというのはどうやら嘘らしい。どうしてそんな嘘をついたのか、少しいらだちながら聞いてみれば山菜先輩は特に理由はないと口にする。ああ、本当にこの人は分からない。何を考えてこんなことをしているのだろう。俺が一つため息をついたとき、山菜先輩はもう一度シャッターをきった。
「…消してください」
「だーめ」
「何でですか」
「私の大好きな人の写真だから」
「え、」
「あ。雨止んだね。じゃあまた明日、剣城君」
何事もなかったかのように立ち去った山菜先輩。今のは何だったんだ、告白…されたのか?山菜先輩が、俺に…?ああやばい、考えたら顔が熱くなってきた。山菜先輩の顔が離れない。「大好きな人」という言葉が離れない。どうしてくれるんですか、山菜先輩。
どうしよう、あなたがすきだ
title by 31D
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