▼ 志摩と朴
》志摩視点
出雲ちゃんをダシに使って朴さんとデートをしている自分は臆病者や。本当は好きなんは朴さんやのに、出雲ちゃんが好きな自分を演じなくちゃ朴さんの傍にいることしかできない。「好きです」たった一言やのに、俺の口からは出てこない。坊がそれを知ったら何て言うやろか。何も言わずに呆れるやろか、もしかしたら笑われるかもしれんなあ。
「…まく…」
「え、あ、」
「志摩君、大丈夫?ボーっとしてたみたいだけど…」
俺を心配してくれた朴さんは俺の顔を覗きこんで顔色を見てきた。大丈夫や、と笑って見せるけど朴さんは信じてくれず、「ちょっと休もうか」なんて言って笑った。
「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうわ」
「うん、じゃあ私がいつも言ってるカフェに行こっか」
そう言って俺の手を取った朴さんは優しく微笑んで、歩き始めた。女の子の手ってこんなに小さいんやな…なんて初めて握る朴さんの手を握りながら思う。それに甘い匂いもする。多分これが女の子特有の匂いなんや。つい緩んでしまう頬を握られていない方の手で隠し、カフェまでの道のりを歩いた。カフェに着くまで、ガラにもなく俺の心音はうるさいほど響いていた。
静まれ俺の心音