用意するもの。 愛用のナイフ、着替えのスーツ、念のための拳銃、そしてコンクリート。 「街の外の仕事って証拠隠滅が面倒なのよね」 そんな物騒な事を呟きながら、夕陽の美女は海辺で笑った。口角だけを上げた、微かながらも魅力的な笑み。 「面倒なら受けなきゃいいのに。付き合わされる僕の身にもなってよね」 夕陽の美女ことティアナの隣で、中性的な少女、レイチェルが呟く。 「レイ、貴女みたいに強くないのよ。私は、ね」 「弱くもないけどね」 間髪入れずにレイチェルは言った。 「まぁね。で、沈めるのも手伝ってくれるの?」 海を見ていた瞳をレイチェルの方に向けて、ティアナは言った。 「どうしようか。箸より重いもの持ったもの無いからね」 「橋よりの間違いじゃなくって?」 「生憎、そんなものは持てないね」 幼い少女のように、彼女達は笑いあう。コンクリートの棺の前で。 「じゃあ、さっさと済ませようか?高くついて構わないなら、手伝うよ」 レイチェルがコンクリートの棺に足を掛けて言った。 「仕方ないもの」 肩をすくめながら、ティアナは答えた。そして、レイチェルと同じく棺に足を掛ける。「それじゃあ、ハニートラップにかかった君の」 「永久の世界への旅立ちを祈って、ね」 「「さよなら」」 かの深き海の紺碧 (そして棺は沈み逝く) ← top |