空はブルー、砂糖を2つ!(結局甘いのは私の方)
ぽちゃんぽちゃんと黒に白を足してぐるぐるとかき混ぜる。それは渦をつくりながらゆっくりと沈んでいった。
「大佐のっスか?」
ぬっと給湯室に現れたその男は、いつもタバコをくわえたまま喋る。
「そうよ」
途端に立ち込めるコーヒーとタバコの匂い。
タバコの匂いは正直余り好きではないのだが、あの人にも吸っていた時期があったっけなどと思い出し少し笑って言った。
「うへぇ、相変わらず甘党っスね」
自分用にコーヒーを入れながら、ハボックが言った。
「本当、甘いものが好きそうには見えないわよね」
まだコーヒーに溶けきっていない砂糖をぐるぐるとかき混ぜながら言う。
「だってコーヒーに砂糖は2つ入れるしカフェではパフェも頼むし、月に一度の自分感謝デーにはホールケーキを食べるし、しかも食後のケーキに生クリームつけないとつけないと怒るのよ!」
「…食後のケーキ?」
間抜けな顔をしたハボックが目を瞬かせているが、リザは自分が発した言葉が相手を停止させるほど攻撃力があることに気づいていない。
「あ、もうこんな時間だわ。早くコーヒー持っていかなきゃあの人サボっちゃうのよね」
ちらりと時計を見た後慌てた様子でコーヒーを盆に乗せ、ぱたぱたと足早に給湯室を出ていった上司の後ろ姿を見ながら、煙を吐き出す。
大佐は中尉にだけは手を出さないと思っていたのになあ。根拠はないが、そんな気がしていたのだ。
むしろ大佐が中尉を女として扱っている気がまるでしなかったのだ。
それなのに、食後のケーキとは…
予期せぬ衝撃的な告白に目眩を覚えるも、自分もコーヒーを手にして給湯室を去ったのだった。
◆ ◆ ◆
「失礼します」
ノックを2回して執務室に入る。
大佐は珍しく真面目に仕事をしていた。こちらを見ずに目線を書類に向けたまま、
「中尉か、なんの用だ」
「コーヒーをお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。置いといてくれるか」
リザはロイの机に静かにカップを起き、ロイが終えた書類のチェックを始めた。
一段落したのか、ロイがコーヒーに口をつける。
「うがあ!」
そしてなんとも奇妙な声をあげたのだ。
リザは驚いて書類から目を離し、声をあげた男の方を見る。
「どうかしましたか?」
ロイは今にも死にそうな顔をして
「に、苦い」
と言った。
途端に緊張の糸が切れ、むっとしたように言い放つ。
「砂糖、2ついれましたよ」
涙目のロイは、咳き込みながらカップをずいとリザの方につきだし、
「じゃあ飲んでみろ」
と言った。
リザはそれを受け取り、一口飲む。
あ、苦い。
「本当ですね」
「なんだ、君は砂糖を入れ間違えたのか?」
「いえ…」
少し考え込んだ後、手をぽんと叩いて、
「ハボック少尉の入れたコーヒーです、それ」
「ハボック?まあいい。それにしても苦い。甘いものをくれ!」
また無茶なことを言い出した。
頭を抱えながらため息をつく。
「いきなり言われてもないですよ、そんなもの」
「いや、ある」
ロイはにやりと笑って、リザを指差した。
「君」
突然のロイの言葉に赤面しつつ、なにを馬鹿なことを、仕事をしてください。と切り返したがロイは聞く耳をもたなかった。
「キスくらいならいいだろう」
「だめです大佐」
「書類はもう殆ど残ってないじゃないか」
いつものことながら自分がロイに甘すぎるのはわかっているのだけれど、これ以上駄々をこねられて仕事がはかどらないのも困るのでキスだけですよ、と渋々承諾した。
「たまには君からしてくれよ」
「…嫌ですよ」
こうなってしまってはロイに従うしかないのを知りながら、形だけ抵抗してみる。
「一回でいいから」
一回だけなら…とどんどんエスカレートする欲求を飲み込んでしまうのもきっと彼だからだというのはわかっている、甘やかせすぎるのはよくないのもわかっているのだが、
目を瞑り待っているロイをみたら(なんにせよ気持ちは悪いのだが)なんだかしないわけにもいかず、
ちゅっ
と一回キスを落とす。
すると、ロイの唇が
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ
と追いかけてきて、しまいにはリザの固く閉じられた唇を無理矢理こじ開けて舌まで入れられたものだからはっきりと抵抗を示す。が、ロイは全く動じない。
「…ん…ちょっ……大佐…!」
ロイはリザの舌を絡めとり器用に吸ったり歯列をなぞったりしている。
「あ…ん…ぷはっ…も、やめ、大佐あ」
次第に甘くなっていくリザの声に満足しながら、それでもロイは舌を抜こうとはしない。
ガリッ
突然鋭い痛みを感じ、慌てて舌を抜き取ったロイは口中に鉄の味を感じて、リザに舌を噛まれたのだと理解した。
「痛いじゃないか」
リザは頬を薄紅色に染め、呼吸を整えている。
「…っ当たり前です!一回の約束ですよ!」
ロイはにやりと笑い、
「今日の夜、覚悟しておきたまえ」
と言ってギシと音をたてて椅子に腰を下ろした。
リザはきっとロイをにらんだ後、赤面したまま執務室を後にした。
◆
扉を開けたリザはびくり、と体を上下させた。コーヒーのカップを持ったまま呆然としているハボックが扉の前で立っていたからだ。
「なっ少尉!」
リザの声でスイッチが入れられたかのようにぎぎぎと動き出したハボックは
「…す、すんませんー!」
と言いながら走り去って行ってしまった。
「……聞かれたかしら」
はあとため息をつく。
ついてもついてもつきたりないわ。と呟きながら。
「これでギクシャクしたら大佐を射撃の的にしてやるわ」
カツカツと遠ざかる軍靴の音が、青い空に溶けていった。
(おまけの煙草)
コーヒー、大佐の持ってきちまったよ、甘すぎて飲めたもんじゃねえ。
ん?執務室から声がすんな。
(一回だけですよ)
中尉の声!?これってまさか…
(ん…はあ…大佐)
ヤってるーーー!
で、フリーズしたのでした。勘違い
…………………………
タイトルがよくわからない感じになってしまいました。ナンダコレ
当サイトのリザさんはため息つきすぎてます。
そして割りと増田さんが真面目。
ハボアイに突入できそうな匂いでしたが、やめときました。
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