「中尉…」
先程までの金縛りにあったかのように動かなかった手足の感覚が嘘のように、自由に身体が動かせる。
声も出る。元の自分に戻れたのだ。
確認してほっと息をつき、目の前の光景をみてはっと我に返った。
リザの両手を掴み、服に手を入れたままだったのだ。
リザの目からは涙がこぼれおちたままで、ますます動揺する。
「…す、すまない!」
慌てて手を引き、ばっと起き上がり彼女を解放する。自由になったリザは少しの間放心状態だったが、すぐに頬に伝った涙を拭わないまま起き上がり脱ぎ捨てられた軍服に袖を通した。
「あの、大佐…」
ようやく涙を拭ったリザが恐る恐る口を開く。
気まずい空気が流れる。
「なんだね?」
「さっきの、なんだったんですか」
やはり、聞かないわけがないよな。どう説明すべきか…正直に言うべきか…。
「すまん、忘れてくれ」
結局説明することが出来ず、彼女が納得出来るわけがないことを知りながら、そんなことを言った。
リザは納得いかない様子だったが、これ以上何かを言っても無駄だと思ったのだろう、わかりましたと言って立ち上がった。
「大佐はもう少し寝ていてください。」
私は仕事してきます。と言ってリザはスタスタと医務室を後にした。
リザが出ていったのを確認してから、大きなため息をつく。いったいアレはなんだったのか。
そして、
「中尉を無理矢理…襲ってしまった」
なんていう上司だ、自分は。セクハラどころじゃない。自分が自分じゃなかったとしても、あんなことしておいて、忘れろだなんて最低だ。上官失格、いや人間失格だ。
しかもあんなことまで言って…
「待てよ…私は中尉に…」
好きだとかいった。好きだとか言った!?
まだぼーっとしたままの頭で状況を必死に思いだし、激しく身悶えする。
しかも、反応は、
「泣いてた…」
あーくそっ!と頭をかきむしり、ベッドにぼすんと身体を沈めた。
最悪だ。これまで築いてきた信頼関係さえも失ってしまった。
「くそ…」
もう一度呟くと、右腕で両目を覆った。
あれこれと考えているうちに猛烈に眠くなり、いつの間にか眠りについた。
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