星降る















初めてリザを泣かせたのは、星が綺麗な夜だった。











「マスタングさんっているんですか?」

リザのつくってくれた夕飯を食べ終え、そろそろ帰ろうかと思っていたところだった。

「なにが?」

質問の意味がわからず聞き返すと、リザはもじもじして、

「や、やっぱいいです」

と言うので、笑顔をつくってみせた。

「なに?言ってよ、気になるだろ」

「本当にいいんです」

やはりリザは強情だな。

小さく、気づかれないように溜め息をついた。
俺はここの家に錬金術を学ぶのために来ている、ちなみに20歳。
師匠の娘のリザは、15歳。
素直で、スタイルも良い、本当に可愛い女の子。

でもまだ子供だし、妹のような存在だ。


「言わないと、ちゅーしちゃうよ」

おどけてみせると、リザの顔は真っ赤になった。
ほら、可愛いな、扱いやすい。

「やめてくださいよっ!セクハラですか!」

「セクハラ!?あのね、リザ早く言ってよ、帰っちゃうよ」

そう言って椅子から立ち上がり上着を羽織る。

「あっ、」

リザが少し残念そうな顔をしたので、追い討ちをかけるように

「早く言って」

と真剣な顔をして見せた。

「……かの…」

やっと観念したらしく、リザがぼそぼそ呟いたが全く聞き取れない。

「え?なになに?」

「…………」

「リーザ!」

「……彼女」

リザは俯いて、顔を真っ赤にしていた。

これは…




「リザ、おいで」

俺はリザの手を掴んだ。
とたんにリザがぱっと顔をあげて、俺の顔をじっと見つめた。躊躇っているような顔をしている。


「師匠ならまだ部屋に籠りっぱなしだし、星見に行こうよ」

そう言ってやると、途端に顔を輝かせて、はいと答える少女。

本当に、かわいい、けどロリコンは趣味じゃないんだよなあ、と心の中で呟いた。
逆に年上が好きなのだ。生まれ育った家が年上の女が常にいる環境だったからだろうか。人妻なんて尚更いい。気楽な関係が一番いいのだ。


こんないたいけな少女の、淡い恋心を受け止める自信が全くなかった。













家からそう遠くないなんにもない空き地についた。
草が生えっぱなしの地面の上に腰をおろし、リザをすぐ隣に座らせた。

「彼女、いないよ」

笑って言うとリザはむっとしたような顔になった。
望むような答えではなかったのだろうか。

「嘘つき、この間みたんです」

意味がわからないというような顔をしている俺に、リザが問い詰めるようにして

「綺麗なお姉さんとキスしてました」

と言った。

見られていたのか、そう思った。
なぜか嫌な汗が背中を伝う。

「あ、あれはただのえっと…」

「彼女じゃないんですか?」

リザの汚いものをみるような目に耐えられず思わず馬鹿なことを言った。

「彼女じゃなくてもキスくらいできるよ」

その先もね、とは言わなかったけれど。

「じゃあ、じゃあ、」

リザがごくりと唾を飲み込んだ。

「私にもキス、してください」

「リザ!?なにいって…」

リザの顔は真剣そのものだった。

簡単なことなのだ。
この少女にキスをすることも、簡単なこと。
リザの肩に手を置く、
いつもみたいに舌を絡めなくても、いい。
唇を触れあわせるだけでいいのだ。

だが、俺には出来なかった。

たかがキスごときに、なぜこんなに躊躇うのかわからないが、リザにはしてはいけない気がしたのだ。

少女の乙女心を踏みにじる、そんな気がしたのかもしれない。

「できないよ」

リザの肩に置いた手を宙にあげて、言った。

「な、んでですか」

俺を真っ直ぐ見ていた目を伏せてたリザは絞り出したような声で

「私が嫌いなんですか?」

と言った。泣いている
と気づいた私はあわてて弁解した。

「違う!リザは師匠の娘だし、それで、…俺なんかと勿体ないよ」


そうだ、リザにはもっと年相応な好青年が合っている。

リザを真っ直ぐ見つめて、思わずドキッとした。

涙を流して、俺を見つめるリザの顔がいつもと違って見えたのだ。

それはまさしく、女の顔だった。


驚いたままでいる私に、
リザがゆっくり近づいてきた。

俺は身動きがとれず、ただ馬鹿みたいにそこでぼうっとしていた。

リザの柔らかい唇がそっと触れた、
途端に体に電撃が走った。




ああ、これが恋か、





ぽつり、と呟いて目を閉じた。
口が塞がっていたので、その呟きは一生彼女の耳に入ることはなかったけれど。















星降る夜に、君に恋をした

























…………………………

若ロイはリザと会うまで恋を知らなかったとかだといいですよね。




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