崩壊する純情1/7

本気で?って旦那は何回も聞いてくる。自分で言ったくせになんで怯んでんの?

「口だけなんですか?」

そう言うと一瞬呆気にとられてそれからニヤリと笑った。ふーん、じゃ、ま行こっか。って軽いノリで店を出る。土方さんなら絶対ムキになって怒ってくるのに。店主のお姉さんには呆れた顔をして見られた。別にどんなふうに思われたって構わないしそっちの世界に行けるなら何だって構わない。
旦那に連れてこられたのはそこから歩いてすぐの所にあった連れ込み宿っていうか…ラブホ?『ガンダーラ・ブホテル』って情緒も何もない看板が高々と掲げられていた。作りも古くてお世辞にもお洒落とは言えない建物だった。
部屋に着くまでの間、私は旦那の後ろにぴったり隠れた。旦那は手際よくチェックインして部屋まで連れて行ってくれる。

「この辺にゃこんな宿しかなくってなー。なんか悪ィなー。」

耳を穿りながら然程悪びれもなく言う。入った部屋は至って普通のホテルのベッドルームだった。私は急に恥ずかしくなって俯いて旦那の後についた。酔いが覚めちゃった…。キョロキョロ辺りを見回してると旦那が振り返って笑う。

「怖い?」
「…全然。」

口を尖らせて少し膨れて見せた。旦那も私の事子供扱いしてる。
ふーん、と笑って私の片方の肩をゆっくり押しベッドに腰掛けさせられた。見上げるとギシッとスプリングが軋んで旦那も片膝を掛ける。そっと唇が近づいてきて重なった。何回か啄んだ後伺うように舌が入って来て思わず身を引くが両腕を掴まれて動けない。

「…っ、ん…っ、ん、」

怖くなって閉じた目をそっと開けると旦那と目が合った。近い。ねっとりと舌を絡めとり口内のあらゆるところを舐め尽くす。息が上手く出来なくて鼻から掠れた声が漏れた。

「今の子ってこんななの?おじさんなんかショックだわー。」
「…ちが…、あ、待っ、」
「まー気安く遊べんのはいいよな。うん、いい風習だわ。」

そのまま後ろに押し倒されてのし掛かってくる。少し抵抗するが気にも留めないような感じで手を背中に回し、あっという間に帯を緩めた。下紐も解かれ自然と合わせが開く。旦那の手は決して無理強いしている訳でもないのに動くたびに肌が露わになってびっくりする。なにこれ魔法?

「だ…、んな、待って…、シャワー…っ、」
「あ?いーってんなの。」
「だって…、汗かいてっ、」
「それがいーんじゃん。いちごちゃんのあまーい匂い唆るわ。」
「…っや、」

首筋に舌を這わされ緩んだ着物の上から体を弄られた。ゾクッと得体の知れない何かが背中を走る。あんな啖呵を切ったものの私は怖くて恥ずかしくてぎゅうっと目を閉じて歯を食いしばった。

「なに?散々煽っといて怖ェえの?今更止めねーよ?」

旦那は耳元で熱い息を吐きながら言う。別に止めて貰おうとも何とも思ってないけど少し待って欲しい。

「だ…、だんな…っ、まって…、ね、ちょっと、」
「んだよさっきから待たねーって。つか旦那って色気ねーなー、名前で呼んでくんね?」

名前…──
そう言われて思わず目を見開いて固まってしまった。

「…あれ?なに?」
「……っ、」
「……もしかして名前知らねーとか?」

…知らない……。万事屋の旦那としか聞かされてなくて…何回か他の人は呼んでた筈なんだけど全く覚えていない自分に愕然とした。動かない私の顔を覗き込んで触れそうなくらい近くに唇を近づける。

「はは、マジで?名前も知らねー男に処女許すってとんだビッチだな、いちごちゃん。」
「…ちが……、」
「違わねーだろ。ま、いーんじゃね?お互い名前覚えてない同士。楽しい事しようぜ?」
「…や、まっ…、」

ニタリと笑った旦那はそのまままた深くキスをしてきた。肩を押し返すがビクともしない。そのうち片方の手は着物を開いて直にお腹辺りに触れる。体を捩ろうにも上から旦那の大きな体で押さえつけられていて身動きすらできなかった。

「だーいじょうぶだって優しくすっから。あ、最初はやっぱ惚れた男ととか思っちゃった?」
「…ちがう…っけど…、」
「うん?違うけど?泣いてんのいちごちゃん。ちょっとそれ白けるから止めようか。」
「…え、」

少し声音が変わったかと思った時旦那の体は一瞬私の上から浮いて自分の腰帯を取り、またのし掛かってきた。嫌だって言ったのに旦那はその帯で私に目隠しをする。

「やだっ、だんな…、外し…っ、」
「ええーだってオメー泣いたら萎えんじゃん。あと土方君に触られてるって思えばいーじゃん。」

耳元で低く囁かれる甘い誘惑。

「土方君と思っていーよ俺の事。」
「……っ、」




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