添い寝



日溜まりの匂いがするふかふかのベッドに身を沈めてから一体どれぐらい経ったのだろうか。ユエがシーツを取り替えた後からだからもう結構な時間をこうして過ごしているのかも知れない。心無しか心地好かった陽射しが陰った気がして、未だ微睡む意識を少しだけ現実世界へと向けて浮上させる。やるゆると目蓋を開いてそうして定まらない視線を静かに左右させた先で予想外な人影を見付けた瞬間、一寸時が止まった。その一寸の間に見事に覚醒を果たした頭が今度は状況整理の為に高速回転を始める中、裏腹な緩慢さでのそりと寝返りを打って何時の間にか増えていたベッドの住人と向かい合う。


「何してんのコイツ…」


至近距離に横たわる紫の麗人は此方に顔を向けてすやすやと何とも暢気な寝息を立てていた。普段の胡散臭い空気も飄々とした笑顔も冷めたアイスブルーの眸も、今は鳴りを潜めている。もしかすると別人ではないだろうかと思わず疑ってしまう程に穏やかな表情を浮かべて眠る男へと、まるで導かれる様にそっと指を伸ばして顔に掛かる髪を掻き上げたら、綺麗な眉がほんの僅か中央に寄せられたけれど目覚める様子は無い。どうやら珍しく熟睡しているらしい彼の姿を何とは無しに眺めている内、眠気が舞い戻り始めた事を自覚した脳がタイミング良く出した欠伸を一つ噛み殺す。それからどうにも判断力の鈍った思考回路が命じる儘にもそもそとシーツを這って彼の腕の中に潜り込む。酷く抱き心地の悪い身体を抱き枕代わりにして閉じた目蓋の向こうでくすりと微笑う吐息を感じた気がしたけれど、沈み行く意識を引き止める事は到底出来なかった。数時間後に激しく後悔する羽目になる事など今は未だ、知る由も無い。


END
(……んむぅ?)
(ふーむ、何時の間にか抱いていた歩さん枕は抱き心地最高ですねえ)
(ぎゃあ!)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -