お義父さん



ぷるぷると震えるその両手は彼の緊張具合を如実に表していて思わず笑ってしまった。土産にと持参した茶菓子だそうだが、もしかしたらそのまま握り潰してしまうんじゃなかろうかと言う程その四角い箱は彼の手中でみしみしと音を立てている。
変な緊張感が漂う室内を何と無しに見回して溜息を一つ。彼が私の両親に挨拶をしなければ、と言い出したのは本当につい最近の事だった。タンスの向こうから帰ってきた後、私とシグルド以外の人間の記憶は都合の良い様に捏造されていて両親にもシグルドは私の恋人と認識されていたのだが、向こうから帰った時シグルドは私の部屋に居て、時間的に挨拶もしない儘何時の間にか勝手に上がり込んだという事になってしまった訳で。当然直ぐに見付かって怒られる羽目となった。勿論、彼の性格を知っている両親は私よりもと言って良い程には彼を信頼しているし、大目玉を喰らった訳でもなかったのだが堅物な彼の方がそれでは納得しなかった。結婚を前提に付き合っている事を明確にするのだと意気込んでいる。そんな大袈裟なと思わないでもないけれど、今後彼以外と付き合うつもりの無い私としても嬉しい事ではあったので何も言わないでおいた。そして今、素敵な息子が出来て嬉しいわと御機嫌な母親が置いて行ったお茶を前に、父親の帰りを待ちながら土産を渡す練習をしているシグルドを横目にした私の心配事は二つ。目下行方不明中の兄の反応とシグルドの手中に在る茶菓子の生存数のみである。



END
(あ!潰れてしまった…!)
(ちょ、私の食べる分は確保しておいてよ!)
(お前…!)
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