バカップル



目の前に在る無駄に整ったその顔を、力の限り殴ってやれたらどんなに気持ちが晴れやかになる事だろうか。
時間にして物の数十秒ぐらいだろうが、もう何十分もこうして考え込んでいる様な気がして思わず盛大な溜息が洩れ出た。それを言外の拒絶と受け取ったらしい男の眉間に忽ち皺が集まる。顰めっ面も男前だなこん畜生、などという感想が瞬間的に脳裏を過ぎる辺り勝敗は決まっている様なものなのだけれど、どうにも納得がいかなくて取り敢えず思い切り睨み付けてやる。そうすると一瞬、ほんの僅かだが彼が怯む事を知っているからだ。普段は飄々としていて、それで居て自信満々で俺様な所があるこの男が、存外自分に弱いという認識は恐らく勘違いでも自惚れでもないだろう。
拗ねた様に唇を尖らせるレナートの子供染みた表情に満足して漸く焦らしに焦らした要求への反応を返してやる事を決意する。ぺち、と軽い音を立てて彼の頬を挟むと、聡い男は直ぐに相好を崩して笑うから解り易い。普段もこういう時の様に解り易ければ楽なのに、と内心で独りごちながら既に目を閉じていたレナートの唇に自分のそれで触れると、何時も通り柔らかくて気持ち良くて、一気にそれまで考えていた事などどうでも良くなってしまった。


END
(やっぱり可愛いなァ、プリちゃんは)
(は?何それこっちの科白なんだけど)
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