痴話ゲンカ




華麗に翻る手指の動きがスローモーションに見えた訳では無い。それでも避けようと思えばそうも出来たのだが、そうしてしまえばきっと更に彼女の機嫌が悪くなるだろう事を予想して彼は行動するのを止めた。結果、その端整な顔と胸元を水浸しにした男の姿が出来上がった。空になったグラスを机上に置いて少女が立ち上がる。


「…良い様ね」
「お陰様で」


濡れた前髪を掻き上げながら視線を向けた先で、冷ややかで刺す様な双眸の中に酷く複雑な色を見出して男は内心ほくそ笑んだ。本能の儘に行動するのは彼女の良い所でも魅力でもあるけれど逆に弱点とも欠点とも言える。何故なら、解り易い彼女の真意は瞳や表情に如実に出てしまう所為で内容と理由に因っては、彼の様に無駄に鋭くて聡い男には愉快で仕方無い、つまり全く以て逆効果となるのだ。それは今回も例外では無かった。即座に彼女が不機嫌な原因を弾き出して、もう既に扉へ向かって歩き出している小さな背中を見詰める。恐らく教会にでも短期家出と洒落込むつもりなのだろう。そうはさせるまいと僅かに柳眉を釣り上げた男はそれでも優雅に緩慢な動作で椅子を引いた。


END
(実は歩さんって、スッチーの事好き過ぎですよねえ)
(…何か言った?)
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