愛情表現





シャワーのコックを勢い良く捻る。丁度良い温度の熱湯が頭に降り掛かり、次第に下りる瞼。タイルを叩く音が耳に心地良い。


何時もより疲れた気がするのは、我儘な彼が、増して我儘だったからだろうか。


もう慣れたけれど、偶には優しい言葉の一つや、愛の言葉の一つ、聞いてみたいと。本人が聞いたら鼻で笑われそうな考えが脳裏を過ぎって、小さく苦笑する。
濡れた前髪を掻き揚げて、再びコックを捻れば途端冷えを感じる身体。溜息を吐いて、直ぐ傍にある曇った鏡を掌で拭う。酷い顔をしているのではないだろうかと、確かめたくなったから。






けれど。









「あ」


水滴が消えた鏡の前。再び曇り始めているそれが映し出す素肌の、ある部分に視線が釘付けになる。



首筋。
鎖骨。
胸元。



確認する為に下を向いたら、腹部の辺りにも、小さな鬱血の後が、転々と。


「……」


冷えたと思った身体が、次第に熱を取り戻していくのを感じた。








紅く紅く咲く華は、普段愛を囁く事の無い彼からの、物言わぬ愛情表現。


END

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