じれったい



短い髪を梳いたその指が頬を滑って顎先を擽る。そして喉元を、鎖骨を掠めて次の瞬間には何でも無かったかの様に白い指は、腕は元の場所へと戻っていくのだろう。
少女の予想に反する事無く身体の横に落ちた腕を自らの背に隠すようにしてそのまま踵を返した青年は小さく笑った。



「さあ、もう夜も遅いですし私はこれで失礼しますね。続きはまた明日教えて下さい」


僅かに此方を向いた横顔は笑顔だったけれどどこか陰が落ちている。それで巧く笑っているつもりなのだろうか、この男は。それとも、恋人である少女が夜更けに恋人である男に自室への入室を許す事の深い意味を本当に理解していないとでも言うつもりか。もしもそうならば今直ぐに天然記念物の称号を贈ってやるところだが。
そんな筈は、無い。何故なら彼はあんなにも解り易い。



「…クラウス」
「…………」


隙を生ませる為に名前を呼んでから足を踏み出す。静かな声の中に微かな怒気と更にほんの少しの甘さを感じ取って彼が逃げるのが先か、少女が彼を捕まえるのが先か。


END

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