悪戯



天から降る柔らかな光に触れて輝く銀色。


ふわり、さらり。
揺れる。


何をするでもなく佇んでいるだけの筈がまるで其処にだけ一枚の絵か何かを貼り付けた様な、存在感。
視線をほんの僅か下げた先に見える背中は何も身に纏わず、彼の細い身体のラインを否応無しに見せ付ける。


(細い)


華奢な様に見えて実際には確りした身体付きをしている事は勿論知っているけれど。


(あー…触りたい)


頭が理解するより先に目前に在る背に近付いた少女は躊躇いもせずそれに抱き付く。音も無く自らの額を押し付けて脇下を擦り抜けた両手を腹部へと回す。気配に気付いていただろう男からの反応は、無い。
冷えた肌と水気を帯びた髪から時折滴り落ちる雫に些かの罪悪感を感じて口端が歪む。季節柄、冷た過ぎる訳ではないだろうがやはりまだそれなりに冷たいだろう泉を一瞥してから、彼の背骨に唇を押し付ける。一瞬ぴくりと震えた身体はけれど次に瞬く間には元通りに無関心を装っていた。


「冷たい、ね」
「誰の所為だ」
「…スイマセン」


不意、に。言葉を発した事で微かに揺れた襟髪から一寸遅れて薫る甘やかな匂いに引き寄せられるかのようにして緩やかに開かれた唇がそれを食む。味のしない銀色に理不尽にも落胆した少女は、腹いせ紛いにくいとそれを引っ張った。


「おい」
「んー?」
「何をしている」


呆れた様に或いは動揺を隠す様に不機嫌な声が少女の行動の意図を推し量ろうと言葉を掛ける。途端むくりと少女の内に湧いて出た悪戯心が自身の行為を知らしめる為に再び髪を唇で引っ張ると男の口からは嫌味な程の溜息。


「………莫迦か貴様は」


素気無く悪態を吐く唇とは裏腹に振り払う素振りを見せない男に、ヴェンツェルに愛おしさを覚えて少女、歩は小さく微笑む。そして、今度は項に口付ける為に背伸びをした。


END

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