幸福論
同じ空を見上げるとか、同じ空気を吸っているとか。
一つ挙げれば、際限が無い。
「歩、どうした?ぼんやりして」
真っ黒い夜空の中、存在を誇示するかの様に二つの星が光を放つ。それをただただ静かに眺めていたら、背後から聞き慣れた低い声が私を呼んだ。殊更ゆっくりそれでも半身だけ振り向いた先には、予想に反する事無くシグルドの姿が在った。
「んー…シグの事考えてた」
跳ねる様にしてシグルドに向き直って、へらりと笑って冗談混じりに答えると直ぐには意味を理解出来なかったらしい彼が珍しくきょとんとして静止する。
「…な」
一寸の間を置いてから少しだけ眉間に皺を寄せて、そして少しだけ頬が赤くなったシグルドのその表情に満足して小走りで彼に近付く。奪う様に自分のものよりも大きな掌に掌を重ねて。
「ね、ほら…アレ見てよ」
「…ん?」
合わせた掌はそのままに、空いた手で二つ並んで光る星を指差す。
「星?」
「私達みたいじゃない?」
同じ空を見上げるとか、同じ空気を吸っているとか。
一つ挙げれば、際限が無い。
でもやっぱり…二人一緒に在るという事が、何よりの幸福。
END
(一つ一つの何気無い出来事が幸せに繋がる。)