ドルチェ
(スティラルカ×歩)



今まで一度もそういう表現を使った事は無いし、そもそも根本的な意味と理由すら理解していなかったのだが。











「ちょっと…」


今現在の状況を不満に思っているらしい歩が咎める様な視線を向ける。真黒いソファの上で少女を組み敷く大柄の男は、それを涼しい眼で受け止めた。状況改善を図るつもりは無いらしい。


「何考えてんのよこんな…ご飯食べたばっかりなのに!!」
「そう!それなんですよねえ」
「……は?」


笑顔で打たれた相槌の意味を理解出来ない歩は、不機嫌を露にした声を上げる。
少女の言うご飯とは、彼等にとって主食とも言える血液ではなく、正しく御飯、炭水化物の事なのだがそれに何か問題でもあるというのか。


「私、物凄くお腹一杯なんです」
「…それが何」
「でも、物凄く歩さんが欲しい」
「………」



今、間違い無く満腹感を抱いている。それこそ、動くのも億劫な程に。けれど、隣から香る甘い匂いが酷く気になる。紅く熟れた唇や、薄紅の頬に視線も思考も引き寄せられてしまう。脳が求めているのだ。




気が付けば、少女を押し倒していた。








そうして、彼は理解する。成程、これが。











「甘い物は別腹という事なんですねえ。素敵な言葉です♪」
「いや、違うと思うわ」


咄嗟に否定したが、正直強ち間違ってはいないと歩は思う。ただ、今肯定するには些か状況が悪過ぎる。何とか逃亡を試みるものの力で敵う筈が無い事は明白で。


「と、いう訳ですから」


どういう訳だと、問う間も無く一瞬にしてスティラルカの顔が近付く。自然と絡む視線。こうなってしまうと最早逃れる術は無い。後は唯、揃ってソファに沈むだけ。







「デザートに歩さんを一人」


END